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 通帳には残高はほとんどなかった。これら証書は遺族に返すのだという。

 孤独死の遺族が求める物は、保険証券、現金、通帳、賃貸契約書、不動産や土地の権利証など、金銭にまつわるものが圧倒的に多い。故人と遺族はとうに繋がりが切れているからだ。もし親交があれば、写真や手紙といった思い出の品が望まれることもある。しかし、孤独死した場合は稀だ。

 また、このように部屋を汚したまま放置されていた場合は、遺品のすべてに臭いが付着している。現実として、遺品のほとんどはゴミとして処分せざるを得なくなる。

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現代日本における戦場

 書類をしまった後、上東とすーちゃんは片づけにかかった。尿の入ったペットボトルのキャップをすべて開けると、そのままキッチンに持っていって、ドボドボドボドボとシンクに流し始める。

 周囲にもわっとした凄まじい尿臭と熱気が充満する。アンモニアだけに悪臭だけでなく、近づくと目を突き刺すようなとてつもない痛みを感じた。普通は食事を用意するために用いる流し台に、排泄物が棄てられていく。

 上東がドアを開けると、何年、いや何十年も掃除した形跡はなく、どこもかしこも黒ずんだ便器が見えた。佐藤は、トイレが詰まって使えなくなると、このペットボトルに自らの尿を溜めていったに違いなかった。和室を片づけていたすーちゃんが、ゴミの山の中からまるで宝探しのように、黄金色の液体で満たされたペットボトルを次々に引っ張り出し、上東にバトンタッチする。上東は、ときおりその臭いにむせそうになりながらも、次から次へシンクに放っていく。そのボトルの数は、優に100本を超えていた。

 上東が防護マスク越しに、すーちゃんに話しかける。

「この小便の臭い、僕の身体にもうすでについちゃってると思うよ。それにしても大をするときは、どうしてたんだろうね」

「大は、あれです。そこのコンビニエンスストアじゃないですか」

 確かに、小便の入ったボトルは大量にあるものの、なぜだか不思議なことに大便はどこにも見当たらなかった。

 上東らによって片づけられたゴミは、全部で500袋にもなった。2人の男たちは40度近い灼熱地獄の中、尿と体液の入り混じった悪臭にその身を置きながら、黙々と部屋のゴミを撤去していく。まさにそれは、現代日本における戦場と呼ぶにふさわしい光景だった。