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 ゴミの中間層を支配するのは、主に雑誌であった。上東が上部の層をどけると、青年マンガ誌などが中間層を築いているのがわかった。赤い縄で裸体をぐるぐる巻きにされた女性の写真集や、股を開いたままの格好でM字に縛られた巨乳少女のアダルトコミックの表紙が鮮やかな色彩を放っている。ふと目を泳がすと、全裸に拘束具を施された女性がうるんだ目でこちらを見つめている。それはひと昔前のアダルトDVDだった。

 孤独死現場では男女に関係なく、こういったアダルトグッズなどが見つかることが珍しくない。故人はSMのジャンルが趣味だったのだろう。上東は特に驚いた様子もなく、慣れた手つきでそれらを袋に詰めていく。

「ほら、ここだけ、黒く濡れてるでしょ」

 そして、山登りの要領で慎重に中間のゴミの山に足場を確保すると、ちょうど真ん中あたりに目をやった。丸くて黒いくぼみがあるのがわかる。上東はくぼみを指して、1人しかいない社員のすーちゃんこと鈴木純治に話しかけた。

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「ほら、ここだけ、黒く濡れてるでしょ。ここだな。ここで亡くなってるね。警察とレスキュー隊がかき回して消毒したみたいだから、ちょっとわかりづらいけど、このへん、湿っているところが体液だね」

 それは、部屋のまさに中央だった。どす黒い液体が約2メートル四方にわたってゴミの上をヒタヒタと侵食している。周囲の雑誌やプラスチックは、墨汁のような黒い液体をたっぷりと吸い込んで変色し、そこだけひしゃげていた。

 そう、佐藤はまさにこの場所で、絶命したに違いなかった。

 上東は、塵取りをゴミの山にそのまま突っ込んではかき出すという作業を繰り返し、体液で湿り気を帯びた雑誌類を集め始めた。雑誌の下から突然錆びついた扇風機が姿を現した。扇風機は、何年も使用された形跡がなく、家主の体重に何年も押しつぶされていたせいか、背骨の部分が2つに折れて曲がっていた。

 上東はドロドロの体液にまみれた、黒く濁ったそれらを塵取りでかき集めていく。汚れた紙や布の切れ端からは、アンモニア臭とはまた違う臭いが鼻孔をふわっと駆け抜けた。やや甘ったるい、油のような、その臭い――。それは、まさしく溶けた人間の体液の臭いだった。

 この黒い体液が、2メートルほどもあるゴミのはるか下の層を優に突き抜けて、畳の底面まで達していると判明するのは、だいぶ後になってからだ。

 佐藤が亡くなったと思われる場所は、山の頂のようになっている。まるで、ここだと指し示すかのように、黒い弓形のものが頂に突き刺さっているのが目についた。