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 家賃6万5000円は毎月手渡しだったが、それが遅れたことは34年間で一度もなかった。そのためそれ以上強くは言えなかった。前著(『孤独死大国』双葉社)を執筆したときから、私は、孤独死する人は、人付き合いの面で困難を抱えていることが多いが、家賃の支払いなどは、きちんとしている人が多いように感じていた。それは佐藤にも当てはまる。

「所帯を持てば、人生、変わっただろうね」

「ウェイターっていっても、あまり接客はうまくなかったんだろうな。佐藤はうまく人間関係を作れない感じがする。でも、特に悪く言う人もいなかったよ。佐藤が勤めていたレストランに行った人を何人か知ってるけど、仕事はまじめにしていたみたいだし」

 佐藤のことを変わっているなと藤本が感じたのは、バスルームの小窓からたまたま中が見えたときのことだった。佐藤の部屋がゴミ屋敷化する数年前だ。浴槽の中に色とりどりの子供のおもちゃのプラスチックの船がいくつも浮いていたのである。変わった趣味だなぁと思ったことをよく覚えていた。

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 生前の佐藤がまるで少年のような趣味があったということに驚くとともに、佐藤が嬉しそうにその船を見つめ、目を細める情景がふと、眼に浮かんだ。

 しかし、その浴槽も次第にゴミに埋もれていったという。

 1年前のこと、佐藤は、近所の道端で倒れているのを発見された。脳に腫瘍が見つかったという。糖尿病の気があった、としか私は上東から聞いていなかった。詳しく聞いてみると、実のところ、藤本は、佐藤の死に複雑な思いを抱えていた。自分たち夫婦が死んだ後も、佐藤がこの物件に住み続けているのだとしたら、その先、どうなってしまうのだろうか。そんな不安を抱えていただけに、佐藤の死でホッと胸を撫で下ろしたというのも偽らざる心境だったのだ。

「たぶん佐藤は社交性がなかったんだよね。世間とうまく付き合えないんだよ。近所のレストランにいたときは、店員の中には若い女性もいてさ。正社員として勤めている間に所帯を持てば、人生、変わっただろうね」

 三十数年間のアパート暮らしの中で、佐藤の部屋は次第にゴミに埋もれていった。藤本は、部屋の外に置かれた洗濯機用の水道で、夏も冬も体を拭いていた佐藤の姿を思い出す。あれは風呂が使えなくなっていたからだったのだ。