「佐藤の部屋の中は、きっと汚いだろうし、汚れてはいるだろうとは思っていたのね。だけど、ゴミ屋敷まではいかないだろうって思ってたのさ。でもドアを開けたら、ゴミがザザーッと流れてきたの。それまでドアでゴミを押さえていたんだよね。ドアの前もすでに1メートルくらいゴミがあったから。手前の4畳半には2メートルくらい、もう鴨居に届くというくらい積もってたの。だから、奥の部屋には立っては入れなかった。ゴミのポリ袋の山の上を、匍匐前進でいくような感じだよね。自分が寝るスペースなんてのは、すでにないの。寝る部分だけ、真ん中がどんぶりのお椀みたいになってる。そこでずっとくの字になって、毎日寝てたんだと思うよ」
勤務先の店長がすでに冷たくなっていたという遺体を発見、あわてて119番したという。やがて警察が来て、簡単な質問の後、彼らによる現場検証が行われた。納体袋に詰めて運び出されたので、藤本もその妻も、佐藤の遺体は見ていない。
きっかけはゴミの分別義務化?
佐藤の部屋がゴミ屋敷になったきっかけについて、藤本には思い当たることがあった。
「4、5年前までは、ゴミをちゃんと出してたんですよ。今、どこの自治体でも、分別ゴミじゃないですか。でも彼が出すゴミは、いつも全部ごちゃまぜだから、ゴミ収集車に置いていかれちゃう。それを私が開けて全部分別していたの。佐藤には、『お前が出したゴミは、持っていかれねぇから、俺が分別して出してんだから、せめて分別して出してくれ』って何度か言ったの。そのあたりからゴミを出さなくなったのかなぁ」
分別できなくなったのがすべてのきっかけだったのか。
とにかく藤本は、佐藤のゴミ問題に、長年悩まされていた。臭いに敏感な妻は、部屋の裏口に回るたびに、窓の隙間から鼻を突くような臭いが漂ってくるのを感じていた。お父さん、佐藤さんに注意してよ、と藤本はたびたび妻から訴えられていたのだ。
「妻から臭いのことを聞いてからは、たまには家を掃除しろとか、佐藤にはちょくちょく言ってたんだよ。あと、ベランダの窓の所に出っ張りがあるんだけど、佐藤はそこにゴミの袋をいつも置いておくの。風で飛ばされて、よく下に落っこちたんだよね。隣の家に飛んでいくと、苦情がくるよって、そういう話はしていた。いつも一度は、『わかりました、すみません』って謝るんだよね。ただ、直る形跡がまったくないんだよね」