1964年(95分)/東宝/4950円(税込)

 前回に続いて、岡本喜八のフィルモグラフィを追う。デビュー作『結婚のすべて』で見事なソフィスティケート・コメディを撮ってのけた岡本は、その後も「暗黒街」シリーズではギャング映画を撮り、「独立愚連隊」シリーズでは戦争映画を西部劇に仕立て――と、ハリウッド映画の影響を直接的に表現した演出で人気を博していく。

 そのままアクションやコメディを撮り続けていても、おそらく「スタイリッシュな娯楽監督」として映画史に名を残していたに違いない。だが、岡本はそうしなかった。ただハリウッド映画を模すだけでなく、その作風は強い独自性を帯びていく。しかも、後の映画と比べても唯一無二といえるものであった。

 今回取り上げる『ああ爆弾』は、そんな時期の代表的な作品だ。物語は、刑務所に服役していたヤクザの親分・大名大作(おおなだいさく/伊藤雄之助)が出所してくるところから始まる。だが、自身の組も自宅も、全て市会議員候補の矢東(やとう/中谷一郎)に乗っ取られており、大作は路頭に迷ってしまう。そして、その腹いせとして、刑務所で知り合った爆弾作りの名人・太郎(砂塚秀夫)に命じて作らせた、万年筆に仕込んだ爆弾で矢東を爆殺しようとする。だが、爆弾はいつまでも爆発せず、次から次へと人の手に渡っていく。

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 この設定ならば、シンプルに撮るだけでも、岡本喜八のシャープでスピーディでユーモラスな演出と噛み合って、ハイレベルなアクションコメディになっていたことだろう。だが、そうしなかった。ここでも、ある洋画ジャンルに仕立てて撮っているのだ。

 それはミュージカルだ。といっても、ミュージカルを取り入れた日本映画はそれ以前にも作られてきた。が、そこは岡本喜八。本作を前代未聞のミュージカルに仕立て上げているのである。

 冒頭からして、度肝を抜かれた。伊藤による自己紹介の口上から始まり、監房での砂塚との芝居が狂言の調子で展開するのだ。しかも狂言の表現手段はBGMだけではない。二人のセリフ回しも狂言そのもの。この段階で早くも、本作が尋常な作品ではないのがよくわかる。

 本作は、あらゆる「音」が楽器として使われているのである。日蓮宗の団扇太鼓「どんつく」、パチンコの出玉、そして入れ歯――。極めつけは終盤の、落選した矢東の選挙事務所の場面だ。矢東はここで暴れまくるのだが、その時の尻を叩く音、ビール瓶をかち割る音といった騒音すらも楽器に使い、やけくそ気味な狂騒が展開されているのだ。

 娯楽職人に留まらなかった鬼才ぶりに、仰天する。