1965年(91分)/東映/動画配信サービスにて/配信中

 今年は日本の娯楽映画史に偉大な足跡を残した二人の映画監督が、生誕百年を迎えた。

 それが石井輝男と岡本喜八。いずれも、ハチャメチャに面白い映画を作り続けたエンターテイナーだ。

 この二人に共通点がある。

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 それは、洋画のテイストをかなり直接的に作風の中に盛り込んでいるところだ。若手時代はノワール調の洋装ギャング映画を多く撮ったのも同じだし、戦争映画を撮れば西部劇の雰囲気を多分に感じさせる作りになっている。ジャズ調のBGMを好む傾向に加え、シャープでテンポの良い演出も重なる。他にも、俳優たちが嬉々として伸び伸びと怪演をしているのも共通している。

 ただ、両者には大きく異なる点もある。岡本演出はカラッとした爽やかさと清潔感があるのに対し、石井演出は湿り気がある上にお下劣さが大きな魅力になっているのだ。

 今回取り上げる『網走番外地 北海篇』は、まさにそんな石井ワールドの両面を愉しむことのできる一本だ。

 本作は、高倉健の演じる主人公・橘真一が網走刑務所を出たり入ったりする人気シリーズの四作目である。一作目からハリウッド映画『手錠のままの脱獄』をそのまま後半部に持ってきたのに始まり、このシリーズで石井監督は臆面もなく洋画の設定を持ち込んでいる。本作もそうだ。

 仮出所した橘が、釧路からペンケセップまでをトラックによる峠道の難所越えで、特別な荷物を運ぶ役目を担うところから物語は始まる。その道中で荷台にはさまざまな人間が乗り込んでくる――。これは、名作西部劇『駅馬車』そのままの設定である。

「荷物」の正体である悪党のギャング(安部徹、藤木孝)と橘の対立や、優しい脱獄犯(杉浦直樹)と現地の母娘との交流など、乗り合わせた面々の人間模様がサスペンスあり、人情ありの抜群の緩急で展開する。これだけでも「巧みに西部劇をトレースしたアクション映画」として十分に面白いのだが、そこで留まらないのが石井ワールドだ。

 冒頭の刑務所シーンから、下世話だったりお下劣だったりというシーンが連発する。刑務所の監房でイチャつき続けた挙句に痴話喧嘩を始める由利徹と砂塚秀夫。腹を下して便器にまたがったまま悪臭を放ちつつ、監房を出る橘を見送る田中邦衛――。物語展開と無関係に下ネタを挿入してくるあたり、いかに石井監督がこうした描写を好んでいるのかがよくわかる。

 スタイリッシュを貫く岡本演出か、下品さも交える石井演出か。そこは好み次第ではあるが、面白さを追求した映画を観たい時は、このどちらかの作品を選べば間違いない。