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『鉄男』の表現手法にも影響したCM制作会社での経験

―― 企画を持って動いたんですね。

塚本 全くうまくいかなくて。できなかった以上は、自分はプータローになるのは許されなかったので、テレビのコマーシャルの会社に入るんです。35ミリのフィルムに近づけるという気持ちがあったものですから。

©藍河兼一

 映画の助監督になる方法というのは誰に聞いてもよく分かりませんでしたし、もう、そういうシステムがなくなっているような雰囲気でもありましたし。また、入っても、ちょっと暗いというか、道が閉ざされているような感じがあって。変な言い方をしちゃ悪いんですけど、青春映画を40歳近くなってから撮るような感覚というのが、どうなんだろうなという感じがして。当時すごく先鋭的なコマーシャルがテレビで流れていたこともありました。コマーシャルの世界はずっと居られるところではないと途中で気づくんですけど、その期間はすごい勉強になりました。電通の大人の方々とか、一流のクリエイティブの方々のそばにいたり、編集の助手に付いて。社内のディレクターは優しいんですけど、外部のディレクターは本当に怖いので、助手に付けと言われた時には、軽い交通事故に遭わないかなと思うぐらい。

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―― 嫌だったんですね(笑)。

塚本 嫌、というか怖かった。何か理由がないと休めないので。でも、怖いところに飛び込んでいたら、みるみる上手くなっていくんですね。編集も、あんな大事に思っていた35ミリのフィルムを肩にかけたりとか、手でちぎっちゃったりとかするんですよね。本当に35ミリフィルムはあこがれのフィルムだったので、そこに近づけただけで嬉しかったですね。

―― CMでは、フィルムを扱って映像を作るということが映画作りに勉強になったんですね。

塚本 そうですね。コマーシャルって短い中のコンセプトの立て方とか表現の仕方が非常に明瞭だったので、かなり勉強になった。『鉄男』を作った時も、明瞭性だけというか、人が鉄になるんだから音楽は全部鉄、ストーリーも美術もみんなただ人が鉄になるだけ、映像も白、黒、銀だけとかいうような。そんなことを思いついたのもコマーシャルの会社にいたからかなと思いました。