近年ではエリザベス・ホームズがCEOとして率いた血液検査会社のセラノス(Theranos)の例が有名です。セラノスが自ら開発したという”革新的な”血液検査技術は全く正確さにかけ、癌の誤診などを繰り返したのですが、会社としては技術開発に失敗したことを隠し、虚偽の情報を提示することで投資を受け続けたのでした。どこかで立ち止まり、失敗を正直に認め、科学者のアドバイスを受けていたら……、あるいは経営陣の力を借りてでも方向転換することができていたら、このような結果にはなっていなかったかもしれません。
2019年にセラノスは消滅し、その後CEOのエリザベス・ホームズは逮捕されましたが、まだ事件から数年しかたっていないにもかかわらず、このドラマチックな展開は人気ドラマ『ドロップアウト シリコンバレーを騙した女(The Dropout)』やドキュメンタリー映画『The Inventor; Out for Blood in Sillicon Valley』などの作品になりました。これはやや例外的な驚きの展開を見せたケースではありましたが、外的評価を高く維持することがプレッシャーとなって、CEOが鬱や不安、パニックに苦しむというケースは日常的によく見られます。
ここまでの大ごとではなくとも、自分自身の失敗の場面を思い返して、何か思い当たることがある人も少なくないのではないでしょうか。
(2)外的評価が低かった場合
では、逆に外的評価がそもそも一貫して低かった場合はどうでしょうか。例えば、当初からあまり資金が集まらなかった、注目もされなかった、「そんな起業では当たらないよ」と言われていたような場合。
(1)起業家の内的評価が高い場合
それにもかかわらず、もし起業家の内的評価がしっかりと確立されていて、「自分たちがあたためている事業には意味がある」と心から思えているのなら、そのアイディアを実現させるためにストラテジーを変えるかもしれません。あるいは、そもそも資金が集まらなかったのは自分たちが売ろうとしてるプロダクトのニーズを市場が理解していないからだと判断し、市場を教育することに努力を振り向けるかもしれない。あるいは、「外的評価は移ろうもの」と割り切って、好機がやって来るタイミングを辛抱強く待つかもしれません。
(2)起業家の内的評価が低い場合
しかし、内的評価が不安定な場合はどうでしょうか。良いアイディアがあるのにもかかわらず、「人から評価されないなら」と早々に諦めてしまうかもしれない。あるいは「注目されないのはおかしい」と怒り散らしてしまうかもしれません。SNSで他の起業家たちのポジティブな投稿を見るたびに、そこに成功を見て自身と比較し、焦りと劣等感にむしばまれるかもしれません。実際にそのような思いがあってか、Xなどで他の起業家や投資家を揶揄したり、馬鹿にしたような投稿をする起業家の姿も珍しくありません。
このように、「自分のやろうとしてることには意味がある、自分たちには価値がある」と信じて、自分たちのいいところにも、足りない部分にも向き合えるような内的評価があると、会社が継続できる中、外的評価に頼ってしまうと、どんなに外的評価が良くても悪くても、会社が破綻してしまうこともあるのです。
外的な評価が欲しいと思うのは、とても自然なことですし、またスタートアップにおいては必要なことでもあります。それは正直に「欲しい」と思うことを恥じる必要はないですし、必要な評価が得られてるときには、大いにそれを誇って良い。でも、それと同時に大切にしたいのは内的な評価を育成することなのです。
