「後免町駅」の愛称が「ありがとう駅」に
「後免」と「後免町」の駅については、南国市の隣の高知市民でさえ間違えてしまうらしく、体験談をコンクールに応募した人がいた。
「高知」からJR土讃線で「後免」へ向かう。同駅で接続する「ごめん・なはり線」に乗り換え、終点の「奈半利(なはり)」まで行った。帰る途中、「後免町」というアナウンスに慌てて下車したところ、土讃線に接続する「後免」ではなく、一駅手前の「後免町」だったというのだ(第11回優秀賞)。
「やなせ先生も『紛らわしい』と感じていました。そこで、『ごめんまち駅ではなく、ありがとう駅にしたら、間違いがなくなるのではないか』と提案したのです」と、徳久さんは話す。
これを受けて、「ごめん・なはり線」の「後免町駅」は、愛称が「ありがとう駅」になった。
ホームには「後免町」の駅名標に加えて、やなせさんの字で「愛称 ありがとう駅」と記した駅名標がもう一つ設置されている。
謝罪と感謝は表裏一体の関係にある
高架駅の橋脚にも同じような掲示があり、これらにはやなせさんの説明が添えられている。
その一部を転記しておきたい。
「ごめん駅があれば
ありがとう駅もほしい
ごめん駅と
ごめん町駅では
まぎらわしい」
続きを読むと、単なる言葉遊びではないことが分かる。
「ごめん町駅の愛称を
ありがとう駅にすれば
ひびきあう
ふたつの美しい言葉」
やなせさんは「ごめん」と「ありがとう」が対立する言葉ではなく、互いに響き合う関係にあると考えていた。
後免町駅の駅前には2006年1月、「ありがとう駅」と題したやなせさんの詩碑も設置された。
「ありがとうといえば
ありがとうという言葉が
こだまになってかえってくる
ごめん町ありがとう駅(以下略)」
謝罪と感謝。決して対極にあるわけではなく、表裏一体の関係にある。「ごめん」と言うことで、「ありがとう」が響き合い、こだまのように広がっていく。
夢のような話ではない。実際に多くの人が経験していたことが、コンクールに寄せられたハガキから分かった。
「『ごめんなさい』を募集するコンクールなのに、『ありがとう』という言葉がたくさん寄せられたのです」と徳久さんは驚く。