「ごめん」が「ありがとう」の意味で書かれている
<コロナウイルスが日本に上陸した年、私は妊婦でした。お腹が大分大きくなった頃遠方に1人で住む母と連絡があまり取れなくなりました。母は電話にも出ず、「大丈夫」とだけメールの返事がくるばかりでした。
春、私は3650gの元気な男の子を産み1番に母に知らせると「本当はガンで入院していた。心配かけたくなかった」と打ち明けられました。
お母さん たった1人でガンと戦わせてしまって ごめんね。私も“お母さん”になれたよ。>(第19回大賞)
「ごめんね」と書かれているものの、「ありがとう」に読み替えられる内容だ。
同じように「ごめん」が「ありがとう」の意味で書かれているハガキはかなり多い。
<妻へ
定年後、台所に立つことにした私。
でもなかなかお前の要望に応えられない。
卵焼き 予定変更 炒り卵
オムライス 予定変更 チャーハン…
俺は卵がきれいに焼けないんだ。
お前、ごめんな。
でもお前、すごいな。
30年近くこんなこと
やってきたんだな。
うまくできない俺に
笑いながら「もうケッコーよ」なんて
言うお前。
がんばるからさ。もうちょっとやらせてくれよ。>(第15回優秀賞)
定年まで家事をしてこなかったのだろう「昭和の夫」。一生懸命に感謝の言葉を連ねていた。
<残業遅くなってゴメンね。スーパーで出来合い
買って来たから、ちょっと待ってて。
妻はそう言って、ケーキをテーブルに置いた。
何だ、このケーキ? 少しイラついて問いかける僕に、
今日は結婚記念日だよ、31回目の。と、妻は笑った。
すっかり忘れていた。
一年近く精神的ストレスで休職している僕に、
嫌な顔一つせずに普通に接してくれている。
妻の背中につぶやいた。
ごめんな。
来年は一緒に旅行でも行こうな。>(第16回サニーマート賞)
50代だろうか。職場で辛くなって出勤できなくなった夫を、妻は笑顔で支える。その気持ちと苦労への「ありがとう」が透けて見える。
<子どもの頃、ケンカばかりしていた。
その度に母さんは菓子折りを持って、ケガをさせた相手の家に謝りに行く。母さんが内職で稼いだわずかなお金が、ぼくのせいでまた消えた。
あの時喉まで出かかっていた「ごめん」が素直に言えずぼくはいつも無言。
いま心から、たくさんの「ごめん」を空に向って叫ぶ。>(第20回優秀賞)
「空に向って叫ぶ」のは、もはや直接言えないという意味なのだろう。いつも味方になってくれた母親への感謝が文章全体にあふれている。