カフカやゲーテの翻訳などで知られる高名なドイツ文学者であり、山や街歩き、自然についてのエッセイの書き手としても高い人気を誇る著者は、70歳を迎えたときから「自分の観察手帳」をつけ始めた。本書は、その手帳に記された「老い」に関する数々の気付きを踏まえた、著者なりの「楽しく老いる秘訣」を開陳したもの。軽やかなユーモアを行間に滲ませつつも、日常生活の中でふとした瞬間に感じる「老い」の現実を端的に描き出した内容が読者に受け、順調に部数を伸ばしている。
「『アンチエイジング』や『元気いっぱいのお年寄り』といったものをもてはやす風潮に対する先生の違和感が、企画の始まりでした。今や長寿の人が増えてみんなが困っているとか、ともすれば『絶望の書』と思われかねない内容も書かれていますし、終末期医療や老人用おむつといった、なかなか触れることの難しい話題にも踏み込んでいます。そうした厳しい側面を描いているからこそ、ユーモアの部分がより輝いて見えるように思いますね」(担当編集者の永上敬さん)
本の内容に共感を寄せやすい、著者と年齢の近い男性が読者層の中心かと思いきや、違うのだという。
「読者の半数が女性なんです。驚きました。昔の肩書きや人脈から離れられない、自立できない男性たちへの先生の厳しい視線が、共感を呼んでいるのかもしれませんね」(永上さん)
2017年8月発売。初版7000部。現在8刷5万1000部