途中、オランダのアーネムという場所で、第二次大戦中の「有名な戦いで倒れた兵士たちの墓」に敬意を表する姿が描かれている。アーネムは英語風の読み方で、オランダ語だとアルンヘム。連合軍がドイツ本土への進撃路を切り開くため、大規模な空挺作戦でライン川などの橋を確保しようとした有名なマーケット・ガーデン作戦の舞台だ。『遠すぎた橋』という映画にもなったが、空挺部隊が確保した橋まで、地上を進撃する部隊がたどり着けずに作戦は失敗し、多数の犠牲を出した。そこにバンドメンバーがドイツに乗り込む前に立ち寄ったところに、まだ戦争の記憶が生々しく残っていたことを伺わせる。
世界最大級の売春街のストリップクラブへ
ハンブルクには今も昔も、船乗りたちを相手にする世界最大級の売春街「レーパーバーン」がある。ビートルズを招いたクラブ経営者はそこに立派な店を構えていたから、彼らはてっきりそこで演奏するのだと思っていたが、甘かった。演奏場所に指定されたのは場末のストリップクラブ。30分演奏したら30分ストリップが行われる。かつてお笑いの世界で一世を風靡したコント55号の2人(萩本欽一と坂上二郎)も浅草のストリップ劇場で出演したというから、まさに下積み時代の苦労ということだろう。この時のメンバーはジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、スチュアート・サトクリフ、ピート・ベストの5人だった。その後スチュアートが外れピートとリンゴ・スターが交代しお馴染みの4人となる。
客の目当ては酒と女性だから、演奏なんかろくに聴いちゃいない。「客のためのショーを!」とけしかけられ、ジョンがゴリラみたいに踊り回っていたというエピソードを、今は亡きジョージが紹介している。宿泊先は照明も暖房もなく、寒さに震えた彼らは英国旗ユニオンジャックをかぶって寝たという。
だがこうした経験が知らず知らずに「どうしたら客に受けるのか」を身に付けさせた。最初は無名だった彼らも、ライブを重ねるごとに人気が出てきた。演奏場所は当初思い描いたクラブに昇格。ただし出演を知らせる店のポスターで大きく紹介されているのは別のリヴァプールのバンドで、ビートルズは小さく二番手。未来の大スターもまだそういう扱いだった。