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2024年現在、バリューブックスには1日に買取希望の本が約3万冊送られてくる。そのおよそ半数が値段がつかない「捨てる本」だ。

「捨てる本をなくすために、僕らが下流でできることはやってきました。でもこれからは、もっと上流の部分でなんとかしたい。出版業界は本を作りすぎているんです。その時だけ売れればいいというような、ファストファッション的な本の作り方をやめたいんですよ」

自分を救ってくれた“本”の力を信じている

中村さんは今、本を丁寧につくり読み継いでいく仕組みを構想し、「スローブック」をスローガンに掲げようとしている。

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参考元であるスローフードは、食をとりまくシステムの見直しをはかるイタリア発祥の草の根運動。それを本になぞらえて、つくり手が生み出した本を最後まで見守れる仕組みをつくったり、買い手が本を大切に読む環境を整備したりと、本の社会運動にしたいと語る。

2024年9月から、バリューブックスの実店舗NABOでは、「読書室」という取り組みがスタートした。夜の店舗スペースを提供し、みんなで本を読む時間をつくろう、というものだ。中村さんはこれを「スローブックの一環の動き」として自らも足を運ぶ。

「情報が加速的になって本が読みにくくなっている現代において、読書室は、少しの緊張関係がある場所で本を読める自分に戻っていくっていう、リハビリ的な役割を担えると思うんです」

本を読むことの効果を自らの体験を持って実感してきた中村さん。本との出会いや関わりが人間を豊かにすると信じ、今日も矛盾と向き合っている。

ざこうじ るい フリーライター
1984年長野県生まれ。東京大学医学部健康科学看護学科卒業後、約10年間専業主婦。地方スタートアップ企業にて取材ディレクション・広報に携わった後、2023年よりフリーライター。WEBメディアでの企画執筆の他、広報・レポート記事や企業哲学を表現するフィクションも定期的に執筆。数字やデータだけでは語りきれない人間の生き様や豊かさを描くことで、誰もが社会的に健康でいられる社会を目指す。タイ・インド移住を経て、現在は長野県在住。重度心身障害児含む4児の母。