ネットで古本の買い取り・販売をするバリューブックス(長野県上田市)を立ち上げた中村大樹(なかむらたいき)さんは、大学卒業後に仕事に就かず引きこもりになった。転売ヤーという言葉すらなかった時、古本の「せどり」を始めて人生を大きく変えた。フリーライター・ざこうじるいさんが、中村さんの半生を描く――。

筆者撮影 バリューブックスの創業者、中村大樹さん - 筆者撮影

創業17年で売り上げ70倍を達成した古書ビジネス

「実は僕、躁うつ病なんですよ」

そう切り出したのは、長野県上田市で古書ビジネスを営むバリューブックスの創業者、中村大樹さん。躁うつ病は気分が高揚する「躁状態」と気分が落ち込む「うつ状態」が繰り返される精神疾患で、双極性障害とも呼ばれる。

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中村さんが2005年に一冊の本を転売したところから始まった古書ビジネスは、Amazonや楽天を通じて成長を続け、2024年6月度の決算で売上高36億300万円を記録した。2007年に法人化してから17年間で約70倍に売り上げを伸ばしたことになる。

移動型書店「ブックバス」や人気ポッドキャスト番組への書籍提供、「本だったノート」の販売など、遊びの延長のようにユニークな事業を次々に打ち出しながら、企業規模を大きくしてきたバリューブックス。

「うつっぽいときは、人を沢山巻き込んで売り上げをあげて収拾がつかないのにどうするんだ、という気持ちになるし、躁状態のときは、もっとやってやろう、もっとできるはずっていう感じになります」

同社が驚くべき成長と幅広い取り組みを実現してきた背景には、中村さんの躁うつ病が影響していた――。

周りに流されて生きた少年時代

1983年、長野県千曲市で生まれた中村さんの幼少期は、意外にも読書や本との関わりが薄い。サッカーは楽しくて高校まで続けたが、進学も遊びも、周りをみて「そういうもの」と疑わず、「ずっと周りに流されるように生きて」きたという。

高校時代、人生で唯一のアルバイト経験をしたのも、サッカー部の先輩に「給料がいいから」と誘われたから。清掃の仕事はやりかたを工夫するのが面白かったが、効率的な方法を進言しても上司には「いいから決められた通りやれよ」とバッサリ。組織で働くということが高圧的で理不尽なものだと思い込み、ほどなくしてやめた。この時の感覚が、後に中村さんの進路決定に影響する。