「僕にとっては“さなぎ”みたいな時期だったんですよね」
このとき身体的に「うつ」の状態に陥っていた中村さんは、思考能力も低下し、体も動かなくなっていた。ベッドから起き上がれない日もあったが、それでも「根本的に信頼していた」自分を活かす方法を「蜘蛛の糸を掴むように」読書を通じて模索する。
「この時期は僕にとっては“さなぎ”みたいな時期だったんですよね。ぐちゃぐちゃなんだけど、その中で作り変わって変態していく。死を意識するほどに最もつらかった時期であると当時に、最も創造的な時期でもあったんです」
どん底で掴み取った「生きるためのパスポート」
引きこもり生活を続けていた9月のある日のこと。いつものジュンク堂で本を読んでいると、「カッコ悪いことで、みんながやりたがらないことをやろう」という一文が目に留まる。藁をも掴む思いで読んでいたのは、転売で小遣い稼ぎをするノウハウ本。
「転売は憧れるような仕事ではないし、なんならバカにされる仕事だと思ったけど、誰もやりたがらない仕事は素人でも難易度が低い。一度そこを切り替えないといけないと思ったんです」
さっそく自宅にあった大学時代の教科書をAmazonで出品すると、翌日すぐに買い手がついた。この時、それまで感じたことのない喜びに襲われたという。
「出品した本が売れたあとにAmazonから送られてきた自動メールが、『これから先も生きていいですよ』っていうパスポートみたいに感じたんです。自分が社会の中でやっていいことが見つかって、嬉しかったですね」
中村さんの頭には、引きこもりながら読んでいたジェームズ・アレンの『原因と結果の法則』があった。仕入れたものを出品して売るというごくシンプルなサイクルは、自分の力で結果をもたらしたことを実感するために、当時の中村さんにとってとても重要なことだったという。
せどりに出会って「これしかない」と思えた
そこからは、水を得た魚のように古本を売った。古物商許可をとり、手持ちの本がなくなるとブックオフで売れそうな本を買い付けた。10時の開店と同時にブックオフに入店し、本棚の端から端まで舐め回すように査定をしながら、閉店まで居座る毎日。買い付けの後は出品と購入者への発送作業を深夜に行い、朝になったら再びブックオフへ……。自分がやっている転売行為に「せどり」という名前がついていたことを知ったのも、ブックオフのせどり仲間からだ。