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NYのクリエイターたちのように生きたい

滞在していた先輩のアパートの本棚には、小説、ノンフィクション、物理やアート、哲学など、幅広い分野の本が並んでいた。

本を読んでこなかった自分が強烈に恥ずかしくなった中村青年が「自分も読んでみよう」と借りたのは、村上龍の小説。それまで「自分とは関係ない」と思い込んでいた本の中には、自分と重なるストーリーが広がっていた。

東京に戻ってからも、中村さんはニューヨークから帰国したカメラマンやその仲間との交流を続ける。彼らからの声掛けで、個展やクラブイベントの手伝いをするようになり、それまで受け身だった学生生活が一変した。

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当時流行っていた『ウイニングイレブン』というサッカーゲームをみんなでプレイすると、活躍するクリエイターたちと対等でいられるような気がした。「ウイイレ」だけではなく思考も彼らに追いつきたくて、中村さんは貪るように本を読む。常に背伸びをしているような高揚感が心地よかった。

ニューヨーク訪問から1年後の春休み、中村さんはある決心を携えて実家に帰省する。

卒業に必要な単位がまったく足りなかったため、大学を辞めようと考えたのだ。辞めたあとのことは考えてはいなかったが、憧れるクリエイターたちのように生きたいという思いだけがあった。

「学生」という身分を手放したら…

意を決して口火を切ろうとしたその瞬間、それまで何も言わずに仕送りを続けてくれた母が、何かを察したかのようにポツリ。「卒業だけはしてね」。

ハッとした。

自分が若い時に出来なかった分、息子には思う存分やりたいことをやってほしいと仕送りを続けてくれた母。すべて見透かされているような気がして急激に申し訳なさが込み上げる。中村さんは「裏切ってはいけない」と大学中退の決意をあっさり翻した。

そこからは、心を入れ替えて真面目に大学に通い始める。この頃には読書が習慣になっていた中村さんは、意外にも授業に面白さを感じた。それまで取りこぼしていた単位は、「単位の取り方」をハックするかのように先輩から学んで攻略。ギリギリの状態だったが、4年生の冬の試験を終えると、無事「卒業」の二文字が見えた。