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会社のミッションは積極的に表に出さない

中村さんのユニークな経営方針はこれだけではない。

バリューブックスには「人々が本を自由に読み、学び、楽しむ環境を整える」というミッションがあるが、中村さんは敢えてそれを積極的に表に出さない。価値観の違う人を排除することを懸念しているのだ。

「ミッションは会社の向かう先を明示するために作ったんですけど、僕もスタッフも本が好きだからここで働いてるっていう人なんてほとんどいなくて、ここなら働けるから、なんですよ。本が好きじゃないと入れないってしたら、今ここで働いている多くの人が一緒に働けなくなってしまうんです」

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そこには、たった1人で始めたときと同じように、バリューブックスが生きるための居場所であり続けてほしいという中村さんの思いがある。

「僕の1番のモチベーションは、自分がずっと躁うつで生きにくい状況だったから、自分自身を生きやすくするっていうことなんですよ。それをちょっと拡張して、他の人も生きやすい場所になるといいなって思うんです」

古書ビジネスの矛盾をなくしたい

2024年6月、中村さんは初めて医療機関を受診し、躁うつ病の確定診断を受けた。ネットの簡易診断でそうだろうと思ってからは仲間にも説明してきたが、家族が増え、周囲により理解や協力を得ようと考えての受診だった。

社会から逃れてきたはずなのに意図しない社会性がうまれてしまったり、本を大切に扱いたいのに捨てる本をなくすことができなかったり……ビジネスを進めていくうえで起こる様々な矛盾に、中村さんは常に嫌悪感を抱いている。ひとつずつ矛盾の解消をはかってきたが、うつ状態になるとその嫌悪感は一層強まるという。

「自分の手が届く範囲で嫌なことが発生しないように丁寧にやれば、多分矛盾はないんだと思うんですけど、自分自身にも両面性があって、やりたくなってしまうんですよ」

躁うつの両面性とシンクロするように、事業の両極を振り子のように行き来しながら、中村さんは矛盾を統合する方法を模索する。