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Yさんは27歳で、夫と別れたために現在は5歳になる娘と2人暮らしをしている。

Yさんは幼い頃から新体操のクラブに入り、高校や大学のときにはさまざまな大会で賞をもらうなどの成績を収めた経験があった。その後、結婚して自身は新体操から離れて、特にそのことにこだわりも未練もなかったのであるが、娘を出産して状況が変わった。

娘が生後7、8カ月になる頃、Yさんが娘のオムツを交換していると、娘は気持ちよかったのか、両脚を大きく伸ばした。それをYさんが見ていて、娘の脚を手で触ったところ、思いのほか脚力があると感じた。後になって振り返って話したところによると、Yさんはこのときに娘の脚力は並大抵のものでないと思い、将来はオリンピック選手にさせようと決意したようである。

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小さな期待が異常な訓練に結びついてしまった

それから娘が少し歩き出し、そして走ったり物につかまったりもできるようになってくるとYさんの猛特訓が徐々に加速していった。3歳になって幼稚園に入る頃には公園にある鉄棒で娘に何度も逆上がりをさせたり、鉄棒の上を何度も歩行させたりもした。訓練が朝早くから始まることもあれば、逆に夜遅くになることもあり、近所の人が何人もそれを目撃していた。

そして、娘が5歳になったとき、それを見かねた住人が児童相談所に虐待通告したのであった。

このYさんは他の親と同様、子どもを愛し、期待をかけていたのは間違いない。それが決して悪いわけではなく、「オリンピック選手にさせたい」という思いもそれ自体は外からとやかく言われることでもない。

ただ、どこにボタンの掛け違いが生まれたかというと、娘の能力に対しての親の認知にあまりにもバイアスがかかり、そのことが過剰な訓練となってしまったところである。まだ生後7、8カ月という月齢で、果たして将来はオリンピック選手となれるかどうかなどと判断できるのだろうか?

仮にできたとしても、3歳という年齢からこのような訓練が妥当だろうかと考えさせられる。このYさんの事例と似たものとして、子どもがまだ幼いにもかかわらず、親は「もう何でもできる」と認知し、できもしないことを無理矢理押しつけたりして問題となってしまうこともある。