もっともわかりやすい例として、「ひとりでお留守番ができる」と考え、まだ3歳の子どもを家にひとり残して、長時間不在にするといった事例などは典型である。このようなケースにおいても、親は実際の年齢以上に子どもが発達していると思い込み、無理な課題を押しつけてしまう。
衰弱しきった娘のSOSに気が付かず…
認知のあり方が子どもに大きな危機を招く要因の一つに、親が子どもに差し迫っている危機を察知できずにいる「危険察知能力の欠如」と、もう一つはすでに危険な状態に陥っているにもかかわらず、それが慢性化してしまい、危険という認識が麻痺してしまう「認知感覚麻痺」がある。
【事例③:子どもの衰弱に気づかず、白目で痙攣するまで放置した20代の母親】
βさんは夫との離婚後、2歳の女児を引き取り母子2人で生活をする26歳の母親である。
女児は2歳まで順調に発育をして、体重や身長なども問題はなかった。ところがインフルエンザをこじらせ、脱水状態となったその頃から、摂取する食事の量もかなり減り、体重は増えるどころか減少が続いた。わが子の変貌ぶりは誰の目にも明らかなはずなのに、一番身近にいるβさんは「少し痩せたかなぁ」程度の認識しか持たなかった。
その後も女児の回復の兆(きざ)しがなく、今までであれば大きな声でこちらにSOSを訴えるかのように泣いていたものがだんだん声も小さくなり、βさんに聞こえるか聞こえないかのか細い泣き声となっていた。
訓練によって認知そのものを改善する必要がある
通常であれば、子どもの衰弱の様子を親が気づくはずであるのに、βさんは子どもの泣き声が小さくなっていくとますますそれをキャッチすることができなくなり、死という危険がもう身近に迫っているなんて予想もしなかった。
幸い女児が白目をむいてひきつけを起こしている場面を目撃し、βさんは初めて女児の異変に危機感を持ち、119番に連絡して一命を取り留めた。このとき、医師から「なぜここまで放置していたのか」と厳しく言われたという。