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殺害を決意した瞬間

 しばらくしてその場は収まり、富美子は伊藤を寝かしつけた後、彼の上司に電話をかけ「故郷の親戚が事情があり、急遽上京したので9日まで休みます」と連絡する。伊藤を思ってのことだった。しかし、伊藤は酔いつぶれて寝入る寸前、ふと言葉を漏らす。

「捨てるのは惜しい。売れば金になる」

 これが何を意味していたのかはわからない。が、富美子は自分が売春婦として売り飛ばされると直感。ついに我慢の糸を切らす。

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 日付が変わった同月午前1時ごろ、母親と弟が寝入っていることを確かめた富美子は、1ヶ月ほど前に伊藤が持ち帰っていた警察の機関誌『自警』で読んだ絞殺事件の記事をヒントに殺害の準備を進める。まずは、真ん中に麻紐をくくりつけた警棒を外に出し雨戸を閉鎖。窓際から引っ張ってきた麻紐を泥酔し寝ている伊藤の首に巻きつけたうえで、紐の両端を渾身の力で引く。伊藤はかすかにうめいたもののすぐに動かなくなった。

写真はイメージ ©getty

 異変を察した母シカ(同51歳)が駆けつけると、富美子は号泣。母も事態を知って泣き崩れたが、これまでの娘の苦しみを間近で見てきただけに心中は複雑で、しばし逡巡した結果、自首させるより遺体をバラバラにして捨て殺人を隠蔽しようとの結論に至る。

 この提案を富美子も受け入れたが、夜明けも近かったため、いったん遺体を柳行李に入れ押入に隠匿。何事もなかったかのように学校に行き教壇に立つ。一方、母親は出刃包丁や鉈、油紙、麻紐を購入。夕方、富美子が学校から借りた自転車で帰宅すると、弟(同14歳)を兄の家に遊びに行かせ、母子で遺体切断を実行に移す。

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