黒澤映画で「自分が次に行きたいのはこっちかもしれんな」と…
――トータスさんと民生さんと言えば、音楽をやめて役者1本で活動していこうと考えていたトータスさんを、民生さんが引き留めた話があまりにも有名です。
トータス アルバム『9』(05)のツアーが終わったあとですね。あのころの活動のサイクルとしては、ツアーが終わると一休みして、次のレコーディングに向けて準備するという流れだったんです。年に1枚アルバムを出すような感じでしたから。それでツアーのあと、次はどうしようかと思ってたんですよね。
その前の『ええねん』(03)は、バンドを脱退していたジョンBが復帰した最初のアルバムで、僕らもわりとはしゃいでね。ガーッと高揚して、初期のウルフルズみたいな、わりと粗っぽいアルバムを作ったんです。それで次は趣向を変えて、じっくり腰を据えてウルフルズの音楽を作ろうと思ったのが『9』だったんですけど、ツアー最終日の日本武道館が終わったときに、メンバーが復帰したあと、一瞬バーッと上がった熱量がまたフラットに戻ったというか。
なんて言ったらいいかわからないけど、倦怠期が始まったような、なんかこう熱いものが感じられないような、そんな感じがしたんです。それで本を読んだり、映画を観たりして、とりあえずなにかインプットしようと。ところがしばらく観てなかったなと思って、『用心棒』とか『椿三十郎』とか、黒澤明監督の映画をDVDで観直したら、自分が次に行きたいのはこっちかもしれんなと思ったんですよね。
――そこに初期衝動のようなものを感じた、と。
トータス そうそう。曲はまったくできないんですよ。でも寝ても覚めても、三船敏郎の顔が浮かんでくるわけです(笑)。「桶屋、棺桶ふたつ。いや、たぶん三つだ」とか、三船さんのセリフ回しに完全に心をつかまれて。
だから音楽ではなく、こっちのほうが希望が見えるみたいな、変な感じになっていったんです。よっぽど疲れてたんでしょうね。心になんとなく隙間風が吹いてたときに、それを黒澤映画がパチッと埋めた。すごいんですよ、黒澤明は(笑)。
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