「役者になんのよ、俺は」。今から約20年前、ミュージシャンを本気で辞めようと考えていたトータスを引き留めたのは奥田民生の言葉だった。果たしてどんなやりとりがあったのか。そして同席していた井上陽水のリアクションは……。(全2回の後編/前編を読む

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よく洒落で言ってた「曲は増えても客は減るんや」

――2005年のアルバム『9』のあと、トータスさんは役者に転向しようと考えました。音楽と役者の二足のわらじではなく、音楽をやめようとまで思ったわけですよね。

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©三浦憲治

トータス そうです。そのころ、よく洒落で言ってたのは、「曲は増えても客は減るんや」って。もちろん曲は、どんどん作りつづけるじゃないですか。でも世の中的には、もしかしたら「ガッツだぜ!!」(95)や「バンザイ~好きでよかった~」(96)辺りが、ウルフルズのひとつのピークだったかもしれない。あとは緩やかに下降していってね。

 自分も音楽家の端くれとして、「ガッツだぜ!!」も「バンザイ」も稚拙なところがあるし、ピークにはまだ至ってないと思って作ってるわけです。でも『9』まで行って、もう書き尽くしたというか、もうやることないかみたいに思ったんですよ。それくらい『9』は達成感のあるアルバムで。

「このあいだ言ってたことはどういうことだ」っていきなり怒られて

――じゃあその思いを、飲んでいるときに民生さんに話したんですか?

トータス いや、よく覚えてるのがね、『MUSIC GARAGE』という深夜の音楽特番があって、それに出たんです。僕と民生くん、サンボマスターがいて、あと(木村)カエラちゃんだったかな。その打ち上げでバーに行ったとき、「もうやることやったし、音楽はいいかなと思ってんのよ」って、酔った勢いでしゃべってたんですよ。

 でも民生くんにではなく、サンボの山口(隆)に言ってたんですよね。そのころサンボとか銀杏BOYZとか、若いバンドに勢いがあったし、「俺らの出番もここまでかな」とか。「じゃあその先どうするんですか?」って聞かれて、「役者になんのよ、俺は」って。それに対して山口が「なに言ってんすか、トータスさん!」みたいな感じで、酒を飲みながら楽しく盛り上がってたんですよね。GLAYのTAKUROくんもそこにいて、「僕はいまでも1日1曲書いてますよ」って言うから、「毎日曲書くからってなんやねん!」とか反論して。

 そうしたら数日後か、数週間後だったか、その期間は忘れたけど、民生くんから電話があったんですよ。「いま寿司屋で飲んでるから来い」って。駆けつけたら、民生くんと陽水さん、それから小林聡美さんが寿司屋の一角にいて、民生くんの顔がちょっと怒ってるんですね。なんや、怖いなと思ったら、「お前、このあいだ言ってたことはどういうことだ」みたいにいきなり怒られて。