「子供の頃に『シートン動物記』を読んだことが、科学に興味を持つきっかけになったんです。動物行動学の名著である『ソロモンの指環』にも、学生時代に大きな影響を受けました。編集者になってからは、自分も動物の生態を扱った魅力的な本を手掛けてみたいと考えていて、ようやく本書と出会えたんです」(担当編集者の田畑博文さん)
著者はシドニー大学の動物行動学の教授。特に集団で生きる動物たちの生態を専門に研究している。本書がポピュラー・サイエンスの本としては初著作。バッタやアリからムクドリ、ドブネズミ、ライオン、クジラ、ボノボにチンパンジー、そして人間まで、多岐に渡る生き物を「社会性」という切り口で紹介していく。
たとえば動物の社会的学習。人間をはじめ多くの動物は年長者から年少者へ知識を伝達するが、カレドニアガラスは若い鳥から年長の鳥にも生存するための知恵を受け渡す。動物の振る舞いから人間が学ぶべきことも多い。
700ページ強の大著で知的な充実感を得られる一方、語り口にユーモアがあり、読み物としての楽しさも十分。日本語版独自の動物のイラストも魅力的だ。
「ネットで何でも手軽に調べられる時代だからこそ、本には内容の濃さや厚みが求められていて、そのような需要にも応えられたと感じています」(田畑さん)