そして日枝は報道前日の8日午後2時から6時過ぎまで、自ら会長室にフジ・メディアHDの該当役員全員を一人ずつ呼び、異動の内示を伝えた。たとえば仙台放送の社長に異動する社長候補の稲木については、こうだ。

「もちろん受け入れ先の仙台放送社長の竹内(次也)君には伝えましたけど、彼自身は8日まで知らなかったはずです。8日が月曜日だから、土日に竹内君に事情を電話で説明し、納得してもらいました。仙台放送は昨年フジ・メディアHDの傘下になり、この先東北ブロックの基幹局としての役割を担う。そこでオールラウンドプレイヤーの稲木君に基盤を強くしてもらおうと考えた。そんな話をし、仙台の竹内君には外に絶対漏らすなよ、と口止めをしておきました。だから稲木君も8日に僕と会うまで、中身については知らなかったと思います」

73歳を社長に抜擢

 遠藤はフジテレビ本社に残るが、残る社長候補のもう一人の専務、鈴木もまた、テレビ西日本に異動になる。日枝はそうして受け入れ先となる地方局や関連企業の社長たちに一人ずつ電話をかけ、了解をとりながら人事を決定していったという。

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 社長レースではあの「101回目のプロポーズ」を企画した常務の大多亮(58)まで候補に挙がったが、最終的に日枝の眼鏡にかなったのが宮内正喜だ。御年73、現社長の亀山より一回りも上であり、かつて秘書室長として日枝の側近でもあった。その新社長の抜擢に疑問の声もあがったが、日枝は意に介さない。

フジテレビの港浩一社長 ©時事通信社

「(年齢の高い宮内を社長にすると)逆風が吹く。絶対にメディアからいろいろ言われるというのは、織り込み済みでした。だけど、今のフジテレビには若い人より、編成、営業、ネットワーク、秘書室長、いろいろやってきた経験が必要だと思ったんです。彼は難しい局面で岡山放送に行って立て直し、2年前にBSフジの社長として戻しました。

 BSの前任社長が長くなってきたとき、4K問題も含め、これからBSがメディアの中心になると考え、彼に(社長を)やってもらった。もともと『プライムニュース』なんかは評価が高いし、BSが大事な収入源になってきている。その宮内君が社長になると、BSの売上げがトップになった。それで『宮内君で大正解だった』と思っているうち、今度の人事になったんです」