オバマがトランプへの直接の口撃を始める。
「ドナルド・トランプが今日、この場に来ています。最近、彼はいろいろと非難を浴びたようですが、この出生証明の問題が片付いたことを最も誇りに思っているのはドナルドなのです。というのも、これで、ようやく本当に大切なことに取り組めるからです。たとえば、月着陸はウソだったのか、というような問題です」
ここまで聴衆は大笑いしながら聞いている。口撃の矛先は、トランプの看板となったテレビ番組におよんだ。
「冗談はさておき、われわれは、これまでのドナルドの立派で幅広い経歴を知っています」
として、最新の『アプレンティス』(編注:04年から10年間、トランプが出演していたリアリティ番組)の放送に触れた。
その回は、男性チームと女性チームが、ステーキハウスで即興の料理を提供した。だが、男性チームが敗北に終わる。その負けた原因を、男性の俳優のリーダーシップが欠けているとトランプが判断を下し、番組は大団円を迎える。
そこでオバマが真面目な顔で言う。
「こうしたことが心配になって、私は夜も眠れないのです。しかし、あなたの判断は間違っていませんでした」
聴衆が再度、爆笑した。
最後にもう一押し。
「もしトランプ氏が、ホワイトハウスの住人になれば、たしかに変化をもたらすでしょう」
そう言って、「トランプ・ホワイトハウス・ホテル・カジノ・ゴルフコース」と文字を入れたホワイトハウスのイラストを会場のスクリーンに映し出した。カジノで何度も破産しているトランプへの強烈な当てこすり。
トランプは満座の中で笑い物にされた。
オバマの毒舌と聴衆の笑い声に、サンドバッグのようにめった打ちにされた。トランプ、完敗である。
それまで1カ月以上にわたり、トランプが渋面を作って並べ立ててきた陰謀論を逆手に取り、そのすべてを笑いに変換するオバマの話術はトランプより一枚上手だった。役者が違った。古今東西、笑いの前で怒りはその力を失うものだから。
上機嫌で会場に入ってきたトランプは、しかし、オバマがスピーチを始めると、表情が固まり、それから、頭から湯気が出そうなほどに怒気を含んだ表情へと変わった。