オバマへの深い私怨と、大統領の座への固執

 特派員晩餐会はコメディアンを司会者とし、この日ばかりは無礼講と、あらゆる政治家がジョークのターゲットとされるイベントだ。会場は爆笑となり、その場は仕方なく苦笑いでやり過ごしたトランプだが、これが以後のオバマへの深い私怨と、大統領の座への固執につながったのだろう。

 2020年の大統領選では、トランプは対立候補のジョー・バイデンにもちろん強烈な競争心を抱いた。そのバイデンに敗れると、ホワイトハウスへの執念から支持者に犬笛を吹き、2021年1月6日に議事堂乱入のクーデター未遂事件を起こさせた。昨年の大統領選では対立候補のカマラ・ハリスがターゲットとなり、インド移民の母親とジャマイカ移民の父親をもつハリスの人種民族を攻撃材料とした。

カマラ・ハリス氏 Ⓒ時事通信社

 トランプの就任式から9日後の1月29日、首都ワシントンD.C.で旅客機と軍用ヘリコプターが空中衝突し、ポトマック川に墜落する事故が起きた。双方の搭乗者計67人は全員が死亡した。

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 翌日、トランプは記者会見の場で、事故の原因は「DEI」とした。DEI(Diversity(多様性)/Equity(公平性)/Inclusion(包括性))とは、就任初日にトランプが大統領令によって廃止した多様性プログラムだ。つまり、事故を招いた管制塔員もしくは搭乗員が、能力がなくとも人種や性別によって雇用されていたという意味だ。さらに前大統領のバイデン、バイデン政権の運輸長官であったピート・ブティジェッジ、遡って元大統領オバマの政策に責任があるとさえ語った。

©時事通信社

 トランプは67人もの市民と米軍兵士が亡くなった事故でさえ、自身の政策を喧伝する場にした。同時に過去のライバルを貶めることで「自分がもっとも優れた人間である」と世界に証明しようとしているのだ。アメリカはこれからの4年間を再び、このトランプの支配下で過ごすこととなる。