俳句にはほとんど知見がないけれど、毎月楽しみにしている番組がある。『NHK俳句』の第4週だ。『NHK俳句』といえば、視聴者から投稿された句を選者やゲストが講評する番組というイメージがあるが、俳人・高野ムツオが選者を務める第4週は違う。毎回、「句会」がおこなわれているのだ。
実際の句会がどんなものかはよくわからないが、この番組における句会とは、選者の高野を含む5人(俳人2人とレギュラー出演者の乃木坂46・中西アルノとゲスト)がそれぞれお題(「兼題」という。今回は「コーヒー」)に沿った俳句を無記名で出し合う。その5本の中から自分の作品以外でもっとも良いと思った句に特選(2点)、次に良かったと思う句に並選(1点)をつける。そして、得点上位の句から、まだ誰が詠んだか明かさないまま、選んだ理由・選ばなかった理由を発表していくのだ。
その合評が刺激的だ。17文字という極めて少ない文字数だからこそ、様々な角度から解釈される。ときには作者の意図を超えるような意味が見出されるダイナミックさがある。それ自体は、俳句の鑑賞の面白さとして目新しいことではないが、それがよりわかりやすく見えてくる。もうひとつ面白いのは、自分が詠んだ句だと明かさないまま、選ばなかった理由を語らなければならない点だ。たとえば、この表現や言葉選びが果たして最適なのか気になったから選ばなかったと講評した人が、実はその句を詠んでいたと発表されると、その句の完成に至るまでの迷いなどがよくわかるのだ。しかも、そんな弱点があることをわかりつつ、その部分こそ、逆にこだわったところだと明かされることもあって、とても興味深い。
何より驚かされるのは、70歳代半ばを過ぎた高野の感性の若々しさだ。セオリーに囚われることなく自由で肯定的。だから句会全体もその雰囲気が漂っている。今回、中西アルノが詠んだ「珈琲やなんにもうまくいかない日」がもっとも多くの票を集めたことはそれを象徴している。本来は季語がなければならないが、入っていない。いかに優れた表現があっても、通常ならその時点でダメだろう。けれど彼女は「どんな季語を入れても、『珈琲』とケンカする」と感じ、あえてそうしたのだ。「普通はいけないんだろうけど、この句会ではありです」と言う高野も「私しか(票を)入れないと思ったら4人も入っている」と笑う。高野の自由さが周囲にも伝染した結果だろう。見ていて心地いい。実は、以前も中西は無季の句を出したが、そのときは0票だった。それでも懲りずに「リベンジ」を果たしたのだ。ゲストの古坂大魔王はその胆力に最大限の称賛を込めて言った。
「ヤッバイ女ですね!(笑)」
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『NHK俳句』
NHK Eテレ 日 6:35~
https://www.nhk.jp/p/ts/6Q6J1ZGX37/



