中3の秋、教室で自ら首を…
A子さんは実家でピアノ教室を営んでいた。その関係で大木も小さい頃からピアノに触れていた。成長して地元を離れても、実家に帰ってくるたびに鍵盤を叩く息子の姿が目に焼き付いている。自分の部屋に閉じ籠ったりせず、ピアノのある部屋で長い時間を過ごしていたという。
「これ言うと親バカみたいなるけど、練習しない割には上手に弾けた。勉強もそう。大して勉強もしないのに難しい問題が解けたり、賢かったな。いろんな才能がある子やったから、磨けば光るってずっと思ってた。なのになんでいつも選択を間違うんかな……」
大木の人生に影が落ち始めたのは中学生の時。クラスメートからのいじめだった。3年間にわたるいじめに耐えかねて、中3の秋に教室で自ら首を吊ろうとした。
「あの時から滉斗は暗くなっていきました。でもいじめのことも何も言わなかった。自分はそんなことに負けてないって思いたかったんでしょうね。私がガンになったのもその頃。5年後私が生きてるかどうか考えたときに、このままじゃって思いが出てきて、あの子に必要以上に厳しく当たっていたかも。『いじめられんようにしなさい』とか言ってしまってたな……。あの子傷ついたよな」
助けてくれる大人がいなかったことが、孤立に向かう大木の心に深く刻まれたのかもしれない。時おり息子と年齢の近い記者に対して、もう会えないかもしれない息子の気持ちを確かめようと言葉を繋ぐ。
「どう思います? 私は言い方間違っていたんかなあ。大学受験の時も強くなじってしまったし。だって普通せんようなミスしてしまうんやもん。そういうのやっぱり傷になりますよね?」
大学受験に臨んだ大木は、受験票忘れや受験番号の記入間違いで希望した大学への進学の道を閉ざされていた。
「私には見せんようにしてたけど、かなり落ち込んでいたみたい。でもこっちも言いたくなるから強く言ってしまった」
その頃から母と息子の距離は開いていった。
