役に向き合うあまり…

『オイディプス王』は、古代ギリシャの詩人ソポクレスによって書かれた悲劇である。

「将来、父を殺し、実の母と交わり、子をなすことになる」

 そんな恐ろしい神託が自身に下されていたことを知り、王子オイディプスは国を捨てる。その後、怪物スフィンクスを倒した英雄として隣国テーバイに迎え入れられた彼は、寡妃イオカステを妻とし、民衆に慕われる王となった。しかし、それ以来、テーバイでは不作が続き、深刻な飢饉と疫病に見舞われてしまう。神に助けを乞うと「先王殺しの犯人を追放せよ」との神託が下る。オイディプスはさっそく犯人探しに乗り出すが、次第に明らかになる“真実”に、彼は打ちのめされ……。

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撮影/引地信彦(2023年公演時の写真)

 稽古の最初に三浦さんに伝えたのは、「舞台上でオイディプスに起きることは、すべて、たった今、自分自身に起きたことだと思ってほしい」。それをそのまま実行した三浦さんは、稽古中、あまりの悲劇の重さから、演技を続けられないほどのダメージを受けてしまうこともあった。しかし、「それほど真剣に役と向き合う彼だからこそ、この役はふさわしい」と石丸さん。

「今から2500年ほど前に書かれた話なので、私たちには共感しにくい部分もあるんです。でも人間は普遍です。特に不条理に苦しめられる人間の姿は、今も昔もそう変わりません。そして、それを今の観客がリアルに受け止められるのは、何より三浦さん演じるオイディプスがとても人間らしいから。“うまく演じる”のではなく、1人の生身の人間としてそこにいる。そんな彼の存在が、私の演出に指針を与えてくれました」