蜷川さんから“父離れ”

 古代ギリシャ劇の特徴の一つが、歌や踊りなどの身体表現で劇の進行や登場人物の心情を伝えるコロスの存在だ。本作ではテーバイの民として、オイディプスを見守っている。

「コロスは冷徹な傍観者である時もあれば、まるで肉親のような情愛を示して主人公に寄り添う時もある。『オイディプス王』がギリシャ悲劇の中でも傑作と言われる所以は、このコロスがあらゆる顔を持ち得ることなんです」

 今回の舞台に登場するコロスは全部で16人。多彩な舞台で活躍する俳優やダンサーたちがその役を担う。

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「彼らには、1人で100人を演じてほしいと言いました。まさに“民衆”として王を支えてほしいと。一方で、彼らには“個”も期待しています。老いた者、働き盛りの者、子どもを産み育てている女性、敵と戦い家族を守る男性、それぞれの立場で為政者であるオイディプスに向き合うのです」

 

 実は石丸さん自身、コロスとして『オイディプス王』の舞台に立ったことがある。石丸さんにとっての“演劇の父”たる師・蜷川幸雄さん演出の舞台だった。また演出助手としても、長年、その隣で謦咳に接してきた。

「ですから最初は不安もあったんです。蜷川さんの影響から抜け出せないのではないか、意識しすぎてしまうのではないか……と。でも、杞憂でした。三浦さんを想定して台本を読んだら、まるで初めて読んだ作品のように感動し、新しい気持ちで取り組むことができました。ようやく演出家の目で戯曲を読む力がついた、あるいは、やっと“父離れ”して、演出家としての自分に、自負を持てたのかもしれません」

いしまるさちこ/兵庫県出身。早稲田大学演劇専攻卒業、NINAGAWA STUDIOに俳優として参加。1993年より蜷川幸雄作品を中心に演出助手を務め、2008年、演出家として独立。13年、NYオフブロードウェイ演劇祭MITFの招聘作品『Color of Life』で最優秀ミュージカル賞・演出賞などを受賞。以来、劇作、訳詞、演出など幅広く活動している。

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舞台『オイディプス王』
作:ソポクレス 翻訳:河合祥一郎 演出:石丸さち子
出演:三浦涼介、大空ゆうひ、岡本圭人ほか
【東京公演】2月21日(金)~24日(月・休)パルテノン多摩 大ホール
【大阪公演】3月1日(土)SkyシアターMBS

https://www.oedipus.jp/