だれにも頼れず、ひとりで産むしかない

家族や学校など地域社会に神経発達症の知識がない場合、「だらしない」など性格の問題として捉えて厳しく接してしまう。神経発達症の特性が理解されないまま、本人には叱責される負の体験が積み重なっていく。そして成人するころには、親にとっては「手に負えない」存在となる。親はこどもに対して悩みを深める一方、こどもは親から見放されたと感じる。

前述の被告女性7人は妊娠を親に相談していなかった(1人は母親が病院に同行したが、反対の検査結果を本人が母親に伝えた)。親との関係が疎遠になっていた人もいた。逆に、親から極端に管理される過干渉に疲弊してしまった人もいた。

親や学校など周囲に特性を理解されないまま成長した結果、孤立を深めた状況。それは、予期せぬ妊娠という非常時に頼るべき存在の不在を招く。

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神経発達症やその特性についての知識と認識を、私たちがともに持ち合わなくてはならないと痛感する。産む性である女の子の成長過程では、特に境界知能や神経発達症を理解し、さらにそれらの特性と性の関わりを大人が注意深く見守りサポートする必要を考えさせられもする。

孤絶状態になる前に救い上げる方法

孤立出産は「妊娠を誰にも知られたくなかったから(孤立出産をした)」という言葉で説明のつく状態ではない。

出産という究極の恐怖シーンの淵に一人で立つ女性は、この最終地点に傾れ込むまでのプロセスで、親、家族、友人、職場、すべての関係性から孤絶し、深い溝に落ち込んでいる。

もし、それらの遠因となった境界知能や神経発達症の特性への理解が社会で共有されていれば、彼女たちは溝に転げ落ちるより早い時点でいくつものセーフティネットによって守られていたのではないか。

高松市の事件は、3回の孤立出産遺棄という特殊さに加えて、もうひとつ、解明が待たれる点がある。

孤立出産嬰児殺害遺棄事件のほとんどは出産直後に母親が殺害している。