サクラとしての初日は順調だった。客が途切れることはなかった。6、7人の客がついた。サクラに限らず、ほかの日本人女性はみな同じようだったと聞いた。4、5人の日本人女性がその店に在籍していることには驚いたが。
そのうちのひとりが「新人さん?」と声をかけてきた。その女からは「メイク代は自腹で毎日約1万円を引かれるよ」と教えられて、また騙されたようで嫌な気持ちになった。ただ、それを差し引いても、サクラの“売れ行き”は3週間で300万円は優に稼げるペースだった。
初日を終えてホテルに帰ったサクラは言いようのない後悔に苛まれた。
「男たちが雑なんです。触り方も何も。初日からアソコがヒリヒリしちゃって。シャワーを浴びながら涙が止まりませんでした」
日本の風俗では男の爪の長さなど、キャストを守るために身だしなみを店側がチェックするが、マカオにそんなものはなかった。店はとにかく回転重視。どう男をあてがい、さっさと帰らせるかに注力しているようにみえた。
ショータイムの合間に聖夜にLINEを送ると即座に返信があった。
「大丈夫? つらくない? 嫌なことされてない?」
一見するとサクラを気遣っての文言だが、「嫌なら帰ってきていいよ」という言葉は一度も発せられなかった。
死を覚悟するほどの体験
マカオ生活3日目だった。サクラは衝撃的な体験をする。
メインの客層よりは少し若い30歳前後の中国人と個室でカラダを重ねていたときのことだ。バックにさせられた。刹那、その客はサクラの首を絞めたのだ。助けを呼ぼうにも声が出ない。窒息寸前になり死を覚悟した。後ろから羽交い締めの状態で腰を動かされ、抵抗することができなかった。
しかし幸運だったのは、サクラが気を失う寸前で男が果てたこと。サクラは震えが止まらなかった。ぐったりと動かないサクラを尻目に500香港ドル(約9500円)紙幣をチップ代わりに一枚背中に置き、何事もなかったかのように個室を出ていった。
男の非道を泣きながら黒服に訴え出たが、黒服は笑っているだけだった。