コロナ禍以前頃から、日本人女性が「海外出稼ぎ売春」する例が増えている。自らの身体を売り出す女性たちはいったいどのようなきっかけ、思いで働いているのか。
ここでは、週刊SPA!編集部の国際犯罪取材班による『海外売春 ――女たちの選択――』(扶桑社新書)の一部を抜粋。飛田新地で「小料理屋」を経営する男性に行ったインタビューのもようを紹介する。(全3回の3回目/最初から読む)
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飛田新地の経営者
新今宮駅に着いたのは、指定された時間よりも少し前だった。駅前の通りの少し先に大阪一高いビルとして有名なあべのハルカスが望める。そのいびつな造形の建築物にくぎ付けになっていたからか、国産高級車が背後に停まっていたのに気づかなかった。
「こんにちは」
声の方向に振り向くと、運転席のウインドウを半分おろし、隙間から野球帽を被った若い男がこちらを見ていた。事前に記者の服装をおっちゃんが伝えていたのだろう。ほかにも通行人はいたのに、なんの迷いもなく声をかけてきた若い男。記者が慌てて返事をすると、「よろしくお願いします」と爽やかに挨拶を返してきた。Kと名乗った男はたしかに「イケメン」だった。服装や見た目からは20代後半に思えたが、30代半ばだという。話を聞くためさっそく助手席のドアをあける。後ろに誰か隠れていないかを見やる。Kひとりなのを確認して助手席に座る。
「聞きたいことがあれば何でも聞いてください」と言うKに、率直に素性を尋ねた。
「大阪の夜の街で遊んだことはありますか? ここから近いんでクルマの中で話しながらでも良ければ行きますよ。直接見たほうがわかると思うんで」
クルマのハザードランプを消し、アクセルを踏むと、高級車は静かに走り始めた。Kは話を継いだ。
「しばらく行くと飛田新地って場所があるんですけど、そこで店をいくつか経営しています。新地ってつく場所はほかにいくつもあるんですけど、そこでも何店舗かやってます。ほかもいろいろやってるんですけど。まぁ、ずっとこの界隈で生きてます」