「金輪際あの男をサクラにつけない」ということで事は収まったが、海外で性産業に従事することの恐ろしさを知った。
それからサクラは、個室に入ると決して男に背中を向けないように接客するようになった。ストレスはさらに増していった。
若い同僚女性の存在
記者はサクラにこんな質問をした。マカオで聖夜とのLINE以外に楽しみはなかったのかと。
「楽しみ……なかったですね。ごはんもほとんど食べられず、4~5キロは痩せたし、部屋に帰るとひたすら寝ていました。迎えがくる時間に起き、メイクをされて店に行く。
それだけでした。感情を持っていたらやってられないですよ」
ただ、たった一度だけ、店で働く“同僚”の日本人女性とランチに出かけたことがあったという。
「その子とはホテルが同じで、どちらから誘ったのか忘れましたけど……なんとなくご飯に行こうか、という雰囲気になって」
ポークチョップバーガーというマカオ名物のローカルフードを食べに行った。名物だとは後から知ったが、ホテルからいちばん近い店だというのが理由だった。
「なぜマカオに来たのかという話をしました。私は『彼氏のホストに頼まれて』と言いましたけど、その子は『ホストの代金が払えなくなって強制的に連れてこられた』と。
あまり盛り上がらなくて、どんな客が嫌だったとか、当たり障りのない話に終始しました」
幼い表情を見せていたその子はサクラよりずいぶん年下に見えたという。
「若いのに大変だなって思いましたよ。ただ、いま冷静に考えると、私も状況は変わらないんですけどね。向こうはオバサン大変だな、と思っていたかもしれない。でも、そのときは騙されているなんて思ってなかったから、なぜかかわいそうに思えました」
店から「ルナ」と呼ばれていたその若い日本人女性とは、それからは毎日挨拶を交わす仲になったというが、それ以上の関係にはならなかった。
「本名も知らないし、スマホで連絡先も交換してないんです。恐らく今、彼女と日本でばったり会ったとしてもマカオのときのように軽く挨拶をして終わりだと思います。私もそうだけど、彼女もマカオに売られていたなんて誰にも知られたくないでしょうから」
