孤独、そして帰国

 サクラは記者との話のなかで、しきりに「孤独」という言葉を使った。聖夜という“彼氏”はいたが、本音をぶつけてもかわすようなメッセージしか返ってこない。マカオに頼れる人間もいない。長期休暇とはいえ仕事も気にかかっていた。ストレスと不安でサクラが体調を崩すまでそれほど時間はかからなかった。

 マカオでの生活も1週間が過ぎた。すると朝、起きられなくなった。頭がボーッとして何もやる気が起きないのだ。見れば体のそこかしこに湿疹が現れ始めた。

 看護師であるサクラは、これはうつ病の症状だと理解した。ただ、どうすることもできないし、どうしようか考えることもできなかった。

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 数日は店に出ることができたが、ついに体が動かなくなった。迎えにくる男に「体調が悪い」と泣きついて休ませてもらった。一日寝たところで回復するはずもなかったが。

 ベッドに横たわりながら帰国を決意した。これ以上マカオに残ると取り返しのつかないことになりそうだった。結局、店に出た日数は11日間。相手にした客は70人超。ほとんどが中国人だった。

「そもそも店にくる7割が中国人でした。あとの2割が欧米系。残り1割が日本や韓国を含めたその他のアジア人。ただ、私を含めた日本人を指名するのは中国人ばかりでした」

 サクラはメイクなどの諸経費を引いても、ここまでの稼ぎは200万円はあると踏み、聖夜に連絡した。

「ごめん、体調がキツすぎて。300はムリ。もう帰るから」

「そう。おつかれ」

 聖夜からのメッセージは簡潔だった。

 強面の男に連絡すると、休んだことで察しているのか、こういったことに慣れているのか、引き留められることはなかった。しかし、空港までクルマを出してくれるということはなかった。来たときより少し割高の航空券を買い、ルナに挨拶もせずにひっそりと帰国した。

 地元はさらに気温が高くなっていて、出国したときより湿度が増していた。

次の記事に続く 日本の出稼ぎ嬢は「使い捨て」「消耗品」…斡旋組織のボスを直撃して見えてきた海外売春の“知られざる裏側”