「これ以上頑張れない」心が折れた瞬間
――体力的、精神的に辛かったのでは。
大山 体外受精に踏み切ってから初めての採卵で、卵が5個とれたのですが、使える卵がほぼ無かった。でも1個だけ、「可能性は低いけど何とかなるかも」というのがあり、胚盤胞(着床の準備が整った受精卵)になったところで子宮に戻しました。でも着床しなかった……。
ここで、心がぽっきり折れてしまいましたね。また採卵してもどうせダメに決まっているって。体外受精は1回60万円前後のお金もかかるし、もうこれ以上頑張れないと思い、気持ちを無理やり仕事に向かわせていましたね。
愛犬の存在が心の支えになった
――仕事に没頭することによって心の整理はついたんですか。
大山 いや、まだグサグサでした。知り合いや友人から妊娠、出産の報告を受けるたびに、心から喜んであげられない自分がいたんです。そんな自分がイヤで、イヤで。なんて心が狭いんだろうって。
そんな時、夫が犬を飼おうと言い出したんです。豆柴の「だいず」って言うんですけど飼ってみたら、もう可愛くて、可愛くて。この子がいれば、子どもはもういいかなと。夫は、不妊治療は私の好きなようにすればいいというスタンスでしたけど、だいずを迎えてからは「この子がいればいい」というのが、2人の暗黙の了解になった気がします。友達の妊娠報告にも素直に喜べるようにもなりました。
――それで2年間は妊活をお休みされていた。
大山 心の平穏を取り戻したちょうどその頃、コロナ禍に。仕事がほとんど中止になりました。時間ができたことに加え、だいずのお陰で心に余裕ができたこともあり、体外受精を再開することにしたんです。ただ以前のような必死感はなく、「ダメだったら仕方ない」という気持ちでしたね。
ところが採卵してみると、卵が9個とれて、そのうち3つが胚盤胞まで進んだんですよ。しかも、2歳年を重ねているのに、以前より質が上がっていたんです。
「陽性です」「もう一度言っていただけますか」
――以前は、授かりたいという一心で、治療自体が精神的にも大きな負担になっていたんでしょうか。
大山 多分そうだと思います。妊活にストレスはよくないとも聞いていたので。
移植前、医師に年齢的にも確率が高い方がいいので2つ戻すことを提案されたんです。ただ、双子の可能性も高くなると。夫に相談したところ、確率の高い方がいいということで、子宮に2個戻すことにしました。
しばらくしてあまり期待しないで結果を聞きに行ったところ「陽性です」と。あまりの嬉しさに頭が真っ白になり、先生にもう一度言っていただけますか、と(笑)。その後の先生の言葉はほとんど上の空でした。
でもまさか、本当に双子が生まれるとは!

