40歳で凍結胚の破棄を決断
――大山さんのお母さんはお孫さんと対面出来たんですか。
大山 間に合わなかったですね……。55歳で亡くなってしまいました。実は父も一昨年、大腸がんで亡くなったんです。会社の健診でがんが見つかり、それから3か月後に旅立ってしまいました。父は娘たちを抱っこできましたけど、もっと頻繁に会いに行けばよかったと後悔しています。
――不妊治療に際して、昨年はまた一つ大きな決断をされた。
大山 40歳を迎えた昨年、冷凍保存していた受精卵(凍結胚)を破棄する決断をしました。決断するまでは本当に辛くて苦しくて……。そもそも夫も私も不安定な職業ですし、これからまた子育てとなると、時間的にも資金的にも厳しいだろうと考えました。双子の子育ての上に、もう一人20年育てることを想定したら、現実的ではないなって。
3個のうちのふたつをお腹に戻しているので、凍結したのはたまたま選ばれなかった胚で……。もしかしたら破棄するか悩んでいる子が選ばれてこの世に誕生していたかもしれない、こんなに可愛くて愛おしい存在になるかもしれないのに。そうすると、なかなか破棄の決断はできなかったですね。そもそも胚盤胞まで進むこと自体、奇跡だと考えていたので。「もし」と考えたら本当に苦しくなりますが……。
女子アスリートの「生理」と「不妊」の問題
――大山さんだけでなく、女子アスリートは不妊治療をしている人が多いように思います。
大山 現役時代、体を酷使していることに加え、競技のプレッシャーでストレスもかかりますからね。ホルモンバランスの乱れや生理痛に苦しむ選手もいるし、高校3年間全く生理がなかったという選手もいます。
――アスリートの生理の問題は、最近になってようやく世間に認知されたように思います。
大山 なんか生理について公然と話し合う雰囲気が、まだスポーツ界にはないんですよね。お互いに情報交換すれば、知見が共有できるのに……。
――不妊治療のことを公表されたのも、そうした思いが?
大山 はい。私も不妊治療の最中はありとあらゆる情報を探していたので。もちろん不妊治療は人によって違いますし、正解がひとつではありません。ただ、私が名前を出して発信することで少しでも心が楽になる方がいるのであればと思って。産婦人科の門を叩くのは敷居が高いと思いますが、治療を躊躇っている人に一歩踏み出すきっかけになればとも思っています。
――大山さんの言葉からは「ひとりで悩まないでほしい」という思いが伝わってきます。
大山 精神的にも身体的にもものすごい負担がかかりますし、先の見えない不安や、孤独を感じる方が多いと思うんです。私もあえて夫の目の前で注射を打ったりしていましたね。
それに不妊治療にはお金がかかる。大きなハードルだったので、実態が広く知られてほしいなと思いました。2022年から保険が適用されるようになってよかったですね。私の場合は、少なくとも300万円前後はかかったと思います。

