作家としては「開店休業」状態

──『李王家の縁談』『皇后は闘うことにした』の2冊を読むと、現代皇室への理解も深まるように感じます。

 明治天皇の娘を嫁がせるため、宮家がいくつか創設されますが、それが現在の皇室の成り立ちにつながっています。昨今、皇室の在り方を巡って様々な議論がなされていますが、そのバックボーンである宮家の歴史を知った上での議論が必要だと思います。

文庫『李王家の縁談』

──やんごとなき方々も、我々と同じような悩みや感情を抱かれるということにも気づかされました。

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 我々庶民とも共通する心情を捉えながら、しかし皇族としての矜持をお持ちになっているというバランスはうまく書かないといけません。やはり、庶民とは異なる回線を通して、世界を見ていらっしゃるはずですから。皇室を扱ったこの2冊では、意識的に格調高い文章を用いています。日本大学の理事長に就任して、ここ3年間は非常に忙しい毎日で、作家としては開店休業状態でもありました。作家は職人と同じですから、感覚を一度忘れてしまうと、取り戻すまでにものすごく時間がかかります。ゴールデンウィークや夏休みの合い間を縫って短篇を書いて、以前よりは執筆に時間もかかりましたが、何よりも、書くことがすごく楽しかった。やはり大好きな皇室をテーマに書いたからだと思います。

──読者としては、次作も待ち遠しいです。

 理事長の仕事に加えて、忙しくなる理由は会食です。少し控えたらいいのかもしれませんが、人と会ってご飯を食べることが大好きなので、こちらは譲れませんね。長篇を書く際には、編集者と一緒になって勉強をします。『西郷(せご)どん!』を書いた際にも、学者の方を招いてチームを作り、何度も勉強会を開いたんです。『李王家の縁談』『皇后は闘うことにした』でも、相当資料を読み込みました。現在水面下で準備を始めている作品もあるので、今年は小説の執筆に一層取り組んでいきたいです。

皇后は闘うことにした

林 真理子

文藝春秋

2024年12月6日 発売

李王家の縁談 (文春文庫 は 3-65)

林 真理子

文藝春秋

2024年12月4日 発売

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