「好きでもない女と結婚するのは絶対に嫌だ」「自分たちは宮家に生まれて、あれこれ苦労した」「あの女王さまでは、子どもをお産みになることは出来ないでしょう」――。
さまざまな立場に葛藤する皇族を描いた林真理子さんの最新作『皇后は闘うことにした』には、読む者を圧倒する“心の内”が綴られます。皇族の内面にどこまでも深く踏み込んだ著書の誕生秘話に、林さんと長年親交の深いNICリテールズ株式会社・昼間匠さんが迫ります。
◆◆◆
“美智子様ごっこ”で遊んだ保育園時代
──昨年は彬子女王『赤と青のガウン』も大ヒットし、皇室への関心がますます高まっています。林さんは「皇室マニア」を自称されていますが、いつから興味をお持ちなのですか。
林 最初のきっかけは、やはり美智子上皇后です。山梨県の田舎の保育園に通っていたころ、皇太子・美智子様ご成婚のニュースをテレビ中継で見たのです。「世の中にこんなにも美しい方がいるのか」と幼心に衝撃を受けました。美智子様ごっこをして遊んだりもしましたね。
今、特に関心を持っているのは、明治から昭和の初めにかけての日本の皇室です。近代化の中で、ファッションなどの様式はヨーロッパの王室に倣った部分も沢山あり、さながら貴族社会で非常に興味を惹かれます。
──初めて書かれた歴史小説も、皇室ものでしたね。
林 1990年に刊行された『ミカドの淑女』ですね。私は82年、『ルンルンを買っておうちに帰ろう』でエッセイストとしてデビューした後、小説を書き始め、86年に直木賞を受賞しました。そのころは、林真理子といえば若い女性の心理を描く作家という評判でしたが、ある編集者が「林さんは軽快なようで重厚な文章を書けるから、歴史小説に挑戦してはどうか」と提案してくれたのです。ただ、当時の私は資料を読み込むような勉強が嫌で嫌で、段ボールで大量の資料が送られてきても、最初は開きもしませんでした。
そのうち、本のコピーにマーカーが引かれて送られてくるようになり、「ここだけは読んでください!」と言われて……。渋々読み始めたら、とても面白かった。『明治天皇紀』という、明治天皇の側近たちが残した記録などを基に書かれた、天皇の生活実録でした。そこに登場するのが下田歌子という宮内省御用掛を務めた人物で、彼女に興味を抱いて『ミカドの淑女』を書いたのです。初めて歴史を扱った作品でしたが、「これから歴史を材にとって書いていけるかもしれない」と思えた一作でした。