ライブアイドルをはじめ、ステージに立つ出演者の華やかな姿が客席からも目に焼きつくエンタメ界。しかし、その世界からの卒業を決断したあとには、厳しい現実も待っているという。
アイドルとして芸能活動をスタート、引退後の会社員生活を経て、エンタメ業界のセカンドキャリア支援を手がける株式会社ISCareerを立ち上げた星野愛菜さん(33)は、その厳しさを当事者として味わった。
会社員への転職後には「売れないアイドルやっていたらしいよ」と、嘲笑された過去も。エンタメ界の一翼を担うアイドル経験者の立場で味わった転職のリアル、そして、経営者として見聞きした現役アイドルの切実な声を聞いた。(全2回の2回目/1回目から読む)
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一般企業への転職後「これほど毎日がつまらないものか」
――椎間板ヘルニアでアイドルを卒業し、うつ病によって芸能界を引退。その後、大手保険会社に就職されたそうですね。
星野愛菜さん(以下、星野) 2018年7月にあった芸能界引退ライブの2日後には、両親が勤めていた会社の面接が決まっていました。うつ病で療養が必要だと言われていたんですけど、たぶん、親が「仕事がないと、この子は何もしていない自分を責めてしまう」と考えて、すすめてくれたんだと思います。芸能界引退から10月に入社するまで、約3ヶ月間は療養しました。
――療養中は、どのように過ごしていたのでしょう?
星野 卒業したグループのメンバー、友だちと会っていました。芸能生活では「遊んでいる場合ではない」と自分を追い込んでしまったので、ゆっくりできる時間を取り戻そうと思ったんです。
理解を示してくれる仲間ばかりで、療養中で何もしていないという罪悪感をおぼえていた私に「ここまでノンストップで生きてきたんだから、たった3ヶ月間の休みなんて短い方だよ」と、やさしく声をかけてくれる子もいました。
――そこから社会復帰して、入社した会社では何年ほど働いたんですか?
星野 28~30歳にかけての3年ほどです。職種は受付と事務で、来客の応対、電話の取り次ぎ、会議室の調整……と、毎日がその繰り返しでした。
誰かと会えば「お疲れさまです」の挨拶からはじまる芸能界の生活とは違い、ビジネス敬語でやりとりする世界が初めは新鮮で、1年目にはビジネスマナー検定を取得したり、楽しかったです。でも、徐々に「これほど毎日がつまらないものか」という思いが募っていきました。
誤解されないように言っておきたいのは、けっして、一般企業での仕事を馬鹿にしていたわけではないんです。でも、自分には合わなかったというか。芸能活動ではお金のためではなく、やりたいことを突き詰められる環境に喜びを感じていたし、定時に出社して何をきわめるでもなく淡々と仕事をこなす日常が、しんどくなってきて。2年目になってからは「この仕事を続けて、どう高みを目指せばいいのか」と迷ってばかりでした。