職場の先輩からは「アフター5が自由に過ごせるのは楽」と言われたが…
――会社員としての退屈な日常から抜け出そうと、ベビーシッターの副業もはじめたんですよね。
星野 そうです。副業が許されている会社だったので、途中からは平日の就業日数を減らしてもらい、週3日でベビーシッターをやっていました。働く選択肢が他にあるかと考えたときに、中学時代に保育士さんに憧れていたのを思い出したんです。ベビーシッターのマッチングアプリの登録後に面接を通過して、本業がある日も17時の終業後にベビーシッターの仕事を入れていました。
職場の先輩は「アフター5が自由に過ごせるのは楽」と言っていたんですけど、私にとってはむしろ、そっちの方が過酷だったんです。ひとつの仕事を「3年以上はやる」と決めていたので、乳児も預かれる「認定ベビーシッター」の資格も取得して、本業の退職後も含めて、31歳までの3年ほどはベビーシッターとして働きました。
――芸能界引退後に一般企業へ就職、ベビーシッターのお仕事も経て、2024年3月にはエンタメ業界のセカンドキャリアを支援する株式会社ISCareerを立ち上げました。
星野 現在経営するアイドルカフェのパイロット版を間借りで試してから、32歳で起業しました。年齢を重ねてもできるベビーシッターの仕事に見切りをつけたタイミングで、親交のある振付師の先生と「アイドル経験者のセカンドキャリアを支援する会社を作りたいね」と話し合ったんです。
例えば、学歴を考えると、中学時代や高校時代をアイドルに捧げている子の中には、高校や大学への進学をあきらめる子もいて。振付師の先生とは、アイドルを卒業したら「一般の感覚がなく、学歴も社会人経験もない子」と世間でみなされてしまうのは「変だよね」とも話し、一通りの仕事を経験した私にできることもあるのではないかと考えて、会社を作りました。
元アイドルや現役アイドルがキャストを務めるアイドルカフェをオープン
――その思いを実現した第一歩が、渋谷にある元アイドルや現役アイドルがキャストを務めるアイドルカフェ「Luna Amour(ルナアムール)」でした。
星野 店舗のプロデューサーは「NMB48」のメンバーだった(太田)里織菜で、13歳から26歳まで、長くアイドルをやりきったタイミングで「カフェをやってみたい」と相談を受けたんです。私も、セカンドキャリア支援のビジネスを考えていた時期でしたし、力になれればと思いました。
――太田さんのように、他のアイドルの方からセカンドキャリアの相談を受ける機会はあるのでしょうか?
星野 色々な声を聞きます。アイドル卒業後の「将来が見えないから辞められない」と言う子もいますし、卒業後の生活が不安で「意地でも続けたいわけではないけど、アイドル以外の選択肢が想像つかない」として、やむなく続けている子もいるんです。学歴がないので、エンタメの世界で生き続けるしかなく「ステージに立てなくなったら、裏方に転向するしかない」と、後ろ向きにつぶやいている子もいました。
もちろん、ステージを作る側に回るのは、悪い選択肢ではないと思うんです。ただ、もっと選択肢があってもいいのではないかとも思います。私自身、学生時代も会社員時代も周囲に「アイドルをやっていた」と胸を張って言えなかったんですけど、仕事の中身を考えると、複数のスキルを持たないとできない厳しい世界でもあるんです。
歌やダンスが上手だったり、顔がかわいかったりするだけで注目される世界ではなく、他人とは違う才能を自主的に見つけながらかけ合わせていく世界ですし、その経験を無駄にすることなく働ける環境を作っていきたいです。