——本編への期待が高まるプロローグでした。

伊坂 そう言えば、冒頭が雑誌に載った時、版元の文藝春秋の人たちから、たくさん感想をもらったんです。僕のモチベーションを上げようとしてくれたのかもしれないのですが(笑)、担当編集者以外の、他部署の人からも感想のメールが届いて。ああいうことは後にも先にもその時だけで。千葉を待ってくれていたのかな、という気持ちになりましたし、これは頑張らなきゃなと思ったんですが、その先の話をほとんど何も決めていなくて。なので、頑張らなきゃな、と思ったはいいものの、そう思っただけで、本になるまで、そこから1年半以上かかってしまいました。

『死神の浮力』新装版のカバーを手がけるのは、グラフィックデザイナーの小林寛さん ©文藝春秋

「死神」シリーズの続きを書くなら?

——本作と『死神の精度』とのもう一つの大きな違いは、死神の千葉視点とともに、人間視点が採用されている点です。プロローグからそうですし、本編でも偶数の日付は山野辺視点でした。人間視点を取ることで、子供を亡くしてしまった世界で生きる親の心情や、死についての思弁をたくさん盛り込もうとされたのでしょうか。

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伊坂 そこも盛り込みたいと思ったことが、この本が厚くなってしまった原因の一つなのかもしれないです。たくさん書きすぎてるんですよね(笑)。うちの子供が幼稚園ぐらいの時に、夜、起きてきて、「死ぬのが怖い。死んだらどうなるの?」と言ってきたことがあるんです。小さいころ、そういう経験って結構あるみたいなんですが、僕は何も言えなかったんですよね。僕も死がめちゃくちゃ怖いから、「大丈夫だよ」と言いつつも、「大丈夫ではないんだよな」と心では思っていて。で、自分にとって最も恐ろしい「死ぬこと」がこの子にもいつか訪れるのかと気づいたら、本当につらくてたまらなくなっちゃったんです。ただ、その後、しばらくして思ったのは、この子に死ぬのが怖くないってことを教えられたらいいなあ、ということで。この小説を書いている時、そういう気持ちだった気もします。

——お子さんに伝える言葉は、見つけられましたか?

伊坂 いやあ、やっぱり、そんな言葉は見つからないんですけど(笑)。ただ、作中で引用した、「その日を摘め」というのは、唯一の答えにも思えました。いくら考えたところで、死の恐怖は克服できないじゃないですか。だとしたらそのことは忘れるしかない。今日一日を楽しもう、その日のことを考えよう、と。ほんと、何の解決にもなっていないんですけど、悲しいことにそれしかないのかなという気がしました。

——本作発表から既に、10年以上の月日が流れています。「死神」シリーズはもう書かないんでしょうか。

伊坂 千葉は書きたいんですよね。ただ、最初に言ったように、パターン化した小説が書けないので、難しくて。新しい何か、がないとダメなんです。この本が出た頃、最初の『死神の精度』を作ってくれた担当編集者にそういう話をしたら、「無理に書かなくていいですよ」と言ってくれたんですよね。「もっと年を取って、おじいちゃんになったときに書いたらどうですか?」とも言っていて、それが、ずっと頭には残っているんですよね。死が自分にもっと近づいたり、イヤだけど病気になったりした時に、カウンセリングのつもりで書くのはありかなと思ったり、でも、その時になったら、小説を書く気にもなれないですよね、きっと。僕はいい加減なので、ふと気持ちが変わって、急に書いちゃうかもしれませんけどね(笑)。2冊とはまたボリュームを変えて、原稿用紙250枚ぐらいのコンパクトな長編にするのはいい気がします。

『死神の浮力』新装版のクリアファイルが当たるプレゼント企画も実施中。詳しくは文春文庫のXから。 ©文藝春秋

このインタビューは『死神の精度〈新装版〉』に収録されている、著者特別インタビューの抜粋です。

死神の浮力 (文春文庫)

伊坂 幸太郎

文藝春秋

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死神の精度 (文春文庫)

伊坂 幸太郎

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2025年2月5日 発売

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