髙石あかりと佐藤勝利のW主演。そして原作マンガの作者は手塚治虫だ。なんて贅沢なドラマだろう。そんな作品が深夜一時過ぎに放映されるのも嬉しい。

 佐藤が演じる近石昭吾の幼少期がまず描かれる。昭吾の母は性に奔放というより、息子の面倒もみずに男を漁る女だ。男との行為を昭吾に見られた母は、彼に暴力をふるう。

 そんな母の仕打ちを受けて育った彼は“性愛”を憎み、軽蔑して育った。大学生になると、まるで母を真似るように、年上の女に金で買われる日々を送る。

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 孤独で希望をもたない昭吾の、唯ひとりの幼なじみが、髙石が演じる渡ひろみだ。笑みを浮かべず、無表情な昭吾。一方のひろみは明るく社交的で、歌手を目指してBARで働く。

 昭吾の誕生日を祝うひろみの優しさに魅かれた瞬間、母の醜い行為が甦り、昭吾はひろみを突き放し、彼女は車にひかれる。

佐藤勝利 ©文藝春秋

 無口で心を開かない昭吾を演じる佐藤と、華やかなオーラを放つ髙石との絡みが、なんとも絵になる。

 昭吾の過失で、ひろみは死ぬ。しかし次の朝には、昭吾はカメラマンとして、カリスマ歌手、シグマを撮影する。シグマの本名は、ひろみ。昭吾はふと、その名を口にする。

 Σ(シグマ)。ギリシャ語で融和、協調を指す言葉だという。愛情を抱きつつ、叶うことない二人の関係を思うと、皮肉な言葉に思える。

 幾度となく生と死を繰り返し、そのたびに愛が成就するかと思われるが、二人のどちらかが悲惨な死を迎える。

 永遠に繰り返される転生。そして前世、前々世の体験が、昭吾の記憶には残る。僕たちは昔、どこかで会ったことがある。そんな想いを抱きながら、数えきれない世界で出会い、死別する二人。

 輪廻、転生が、性愛と並ぶ主要テーマなので、手塚治虫の代表作『火の鳥』を連想する人は多いだろう。しかし宇宙と時間を行きつ戻りつし、生命と人間の本質に迫った『火の鳥』は、あまりにもスケールが壮大に過ぎ、収拾がつかなくなった感を抱いた。

 それと比べると、『アポロの歌』は小ぶりな作品ではあるが、輪廻、転生と愛の哀しみを巧みに織りまぜた味わいある連作となったのではないか。

 手塚治虫の原作、良し。髙石あかりと佐藤勝利のWキャストも文句なし。やや昏めの色調が美しい映像も深夜にぴったり。

 中村敦夫が司会のドキュメント番組が昭和の末期にマンガ特集を組み、私と手塚さんをゲストに招いた。楽屋にいると手塚さんがやってきて「ねえ、カメワダ君、マンガの話をしようよ」と誘われ、本番前の一時間、たっぷりマンガの話を交わした。なんと贅沢な時間だったことだろう。

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『アポロの歌』
MBS 火 24:59~/TBS 火 25:28~
https://www.mbs.jp/apollonouta/