【検察官】では、ADHDと性格を分けるものは何ですか。
【興野】本人に生きづらさがあるかどうかです。ADHDの所見が見られてもその方が日常生活に困らないのであれば、私たち精神科医が口出しをすることではありません。でも、この方は、小さい頃から日常生活で困っていました。
専門家「犯行直前までADHDが深く関与」
興野氏は、ADHDが引き起こした本人の苦しさは家族との関係によって生じていたと指摘した。日常生活で意図せず問題を起こしてしまうことについて、わざとではないのに、親は原因がADHDにあると認識していないため、厳しく叱責する。
なお、本人が供述した「小学2年から中3までいじめを受けたこと」や「祖母や母に、いらない子、産まなければよかった子と言われた」辛い記憶は、両親の供述には記されていない。
こうして叱られる経験が積み重なった結果、本人が自分を肯定できなくなってしまう思考を植えつけられてしまった。むしろ、問題はここなのだと、検察官の質問に興野氏は答えた。
ADHDと孤立出産に関する検察官と興野氏の質疑のうち、特に重要だと思われた部分を抜粋して紹介する。
【検察官】孤立出産する人は愚痴を言ったりできない人?
【興野】成長過程で何らかの傷つきを得ている人ということができる。
【検察官】被告は生命の重さの価値観が歪んでいたのか?
【興野】本人なりに大事にする気持ちはあったと思う。ただ、優先順位が間違っていた。ADHDだから命を軽く感じるということではない。優先順位の付け方を、極めて困難な状況下で間違えてしまったということ。被告は自己肯定感が低い人。殺害を決意する前の段階にはADHDが関係しているが、決意したのは衝動によるものではなかった。丁寧に考えれば解決できるのに、そうできず、緻密に物事を進められなかった。これもADHDの特性だ。
【検察官】ADHDは犯行に間接的に関与があった?
【興野】殺害行為に至る直前まで深く関与したと考えるのが適切だ。