遺棄を繰り返した点については、失敗経験を学習するのが苦手な特性によるものであると、興野氏は分析した。

「懲役6年」の判決は軽すぎる?

公判最終日の2月21日、検察の懲役7年の求刑に対し、懲役6年の実刑判決が言い渡された。判決ではADHDの影響について「生活に困窮するに至った点や、他に救済を求める手段を検討しなかった点にADHDの影響があった可能性は否定できないが、10日前後養育した後に殺害を決意しており、衝動性はうかがわれない。与えた影響は大きいとはいえない」と結論付けた。

殺人の最低刑は5年と刑法で定められており、この事件ではさらに3人についての死体遺棄罪が加わったとみられる。判決を伝えるネットニュースのコメント欄には「刑が軽すぎる」という意見がたくさん書き込まれた。

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懲役3年程度が妥当と主張していた主任弁護人の田中拓氏は、懲役6年という結果に失望しつつも、判決文を評価した。

「今回、社会福祉士に6回の面会を経て更生支援計画を立ててもらい、内容を社会福祉士が証人として証言しました。大きくは、福祉の専門家による継続的な支援を受けながら、定期的な精神科の受診と服薬、金銭管理、就労など、今後の人生を立て直す道筋です。判決文にはその方針と本人の生き直したいという意思を一定程度酌んだ内容が記されていました。

僕らが裁判で望んだのは、被告人となった女性に、なぜ、いま、自身がこういう場所に行き着いたのかを考える場にしてほしいということでした。精神鑑定の結果の説明を受けて、彼女は、大変腑に落ちた様子でもありました。ぜひ、新しい人生のきっかけにしてほしいと願います」

「母親なら」「母親なのに」という偏見

産む性である女性が境界知能や神経発達症の特性を周囲に理解されないまま育つ。すると、生い立ちの過程で否定される経験を繰り返し、「依存」「衝動性」「丁寧な思考ができない」といった特性がマイナスの場面で強く出て、予期せぬ妊娠やその後の孤立出産と殺害遺棄に結びついてしまう。