独特の言葉を選んだ表現、そして、3年経っても赤ちゃんの姿を生き生きと浮かび上がらせた記憶の確かさは、彼女が関心を持って赤ちゃんを見つめていたことを伝えている。それは「愛情」だったと思わずにはいられない。

供述調書によると、客との性行為による妊娠がわかったとき、女性は極度の困窮状態にあった。住民票を持たず保険証がなく、中絶費用を捻出できなかった。病院に行かず1人で産んだら、身体が落ち着いてから熊本にある赤ちゃんポストに連れて行こうと思った。だが、コロナ禍の不運が重なり、出産直前には5日連続で客がつかず、往復の旅費4万円の目処が立ったのは、出産前日だった。

ところが予定外の事態が起きる。アパートで出産してから5日め、電気が止まる。電気代を滞納していたのだ。

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紙おむつを使い切り、「お別れ」を決意

女性は携帯電話を解約させられていた。電気が止まれば外部とつながる唯一の手段であるWi-Fiが作動しなくなる。また、赤ちゃんの沐浴もできない。女性は旅費を取り崩して電気代を支払った。

この日を境に女性は熊本へ連れていくことを諦める方向へと心が傾いていく。そして、手元にあった64枚の紙おむつを使い切ったそのときが、赤ちゃんとの生活のお終いの日だと思い定める。女性は1日でも長く一緒にいられるよう、紙おむつが汚れないように工夫した。ついに10日め、紙おむつを使い切った。

その日、女性は溢れる母乳でびしょびしょに濡れたガーゼタオルを赤ちゃんの顔に被せると、急いでアパートを出た。赤ちゃんが苦しむ姿を見たくなかったという。

女性はこの方法で殺害した理由を尋ねた検察官に、「落としたり刺したりして赤ちゃんの体を傷つけたくなかった、せめて、母親の匂いに包まれて旅立ってほしいと思った」と答えた。

近所を歩き回りながら、この子をはじめこれまでに産んだ4人の子どもたちのかわいらしい仕草が思い出されていたという。30分ほどで家に戻り、息をしていないことを確認すると、彼女は遺体を沐浴させ、新しいおむつとベビー服を着せ、被告のベッドに横たえ、遺体に添い寝をして10日間を過ごした。