アメリカが「不平等」な社会となっている元凶はどこにあるのか。経済学者の岩井克人氏が解説する。
◆◆◆
自由放任主義と株主主権論の「理論的誤謬」
アメリカが「ディストピア」となったのは、その資本主義が自由放任主義的であり株主主権論的であることによるのは明らかです(その民主主義がポピュリズムを招きやすい大統領制であることも、大いに寄与しています)。
だが、ここで強調したいのは、自由放任主義も株主主権論も「理論的誤謬」であるということです(それは、『不均衡動学』や『貨幣論』や『会社はこれからどうなるのか』などで長年にわたり論証してきました)。
まず、自由放任主義は資本主義経済が貨幣経済であることを無視した誤謬です。人が貨幣を受け取るのは、モノとして使うためではありません。他の人もそれを貨幣として受け取ると予想しているからです。その意味で、人はそう意識していなくとも、貨幣を受け取るたびにまさに投機をしているのです。そして、投機にはバブルが伴い、バブルは破裂します。貨幣のバブルとは人がモノより貨幣を欲しがる不況であり、貨幣バブルの破裂とは人が貨幣から逃走するインフレです。不況が悪性化すると恐慌となり、インフレが悪性化するとハイパーインフレとなります。すなわち資本主義とは貨幣経済であることによって、恐慌やハイパーインフレの危機に常にさらされている本質的に不安定なシステムなのです。
さらに、株主主権論も、会社が法人であることを無視した誤謬です。オフィスや工場を所有し、従業員や仕入先や銀行と契約を結ぶのは、株主ではなく法人としての会社です。その会社を現実にヒトとして動かすのも、株主ではなく経営者です。いつでも株を売り逃げできる株主と違い、経営者は会社に対して忠実義務を負っている存在です。それは、ひとたび会社をヒトとして動かす役を引き受けたならば、会社を自己利益の道具としてはならないという倫理的な義務に他なりません。