日本以外全部にある“専門医療”

久道 つまり、筋力や体型より歩行速度が圧倒的に重要なんです。歩行が健康寿命の鍵を握っている。私が足病を専門とするようになった理由もそこです。欧米には足病医療があります。例えばアメリカには1万5000人の足病医がいる。足しか診ない医者ですが、足のことなら皮膚も血管も骨も筋肉も神経も全部診る。実はこの足専門の病院は、G7の国々は、日本以外全部にある。

渡辺 え! 日本にはない? 先生の病院以外?

久道 当院以外にもありますが、まだ非常に少数です。超高齢化社会なのに、足にあまり関心がないんです。しかも、日本は、平均寿命はトップレベルなのに健康寿命は伸び悩んでいる。つまり、歩行困難の最初のステップを早い段階で下りる人が多い、ということ。ですから、足病の専門病院をつくったんです。

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松本 寝たきりの状態になってしまうのを防ぐために。

 

久道 そうなんです。足は体の全体重を支えています。さらに歩いているときは体重の1・5倍、走ると3~4倍にもなります。一方で心臓からいちばん遠いところにあって、環境としていちばん過酷な部位です。実は、老化のサインが最初に現れるのが足なんです。足の状態をチェックしていれば、将来に備えることができる。血流が悪い、運動器に問題がある、そういったことを全部教えてくれる。僕らからすれば、足にもそれぞれ顔があるんです。

 そして、女性は、足のトラブルが男性の4倍多いと言われています。なぜか。 女性ならではのライフイベントがあるからです。妊娠と出産、更年期と閉経、その二つの時期に大きく足の状態が変わります。エストロゲンとリラキシンというホルモンが、この時期の女性の体を決定する働きをするので、足の変形が起こるのです。

出産、更年期、閉経で足も変形する

女史会 まさに!!

渡辺 私たち直面してます。

久道 まず、妊娠・出産が影響の第1期です。人間は四足歩行から直立二足歩行へと進化しましたが、そのため骨盤が狭くなったことにより出産が大変になった。大きな脳を持った赤ちゃんをひねり出さなければならないからです。そこで、それを少しでも楽にするためにリラキシンというホルモンが出て、骨盤、腱や関節、靱帯を緩めようとするようになった。

 でも、その影響で足の変形も起こってくる。扁平足になったり外反母趾になったり。しかも、そういった変形が出産後に戻るかといえばそうではなく、ずっと引きずっていくことになるんです。