溢れ出した「マグマ」の熱は、伝播する。二村さんは2020年9月、ドキュメンタリー番組『セブンルール』に出演した。その番組のなかで『エンド・オブ・ライフ』を勧めている映像が流れると、発売から半年以上が経ち、動きが止まっていた書店の在庫が一気に売れ始め、重版がかかったそうだ。
「セブンルール」では、コロナ禍でお客さんが遠のき、激減した売り上げをカバーしようと始めた「1万円選書」の話もした。全国から希望者を募り、記入してもらったカルテをもとに二村さんが1万円分の書籍を選んで送るという取り組みだ。
番組の反響は大きく、約600人から応募があった。その際、未曽有のコロナ禍にあって「読むと生きる力をくれる本だから」と多くの人に届けたのが、藤岡陽子さんの『満天のゴール』だった。
加速度的に減り続ける客数
現在、1日の平均客数は40人から50人。二村さんも「本当に厳しい」と眉根を寄せる落ち込みだ。それでも経営が成り立つのは、客単価が上がっているから。
「私が働き始めたばかりの1995年には、1日平均400人のお客さんが来ていました。でも、客単価は800円ぐらい。それが今は2000円ぐらいなので、なんとか持ちこたえています。だからもっと本の良さを伝えなきゃと思って、イベントを頑張っています」
コロナ禍にリモート配信を始めたこともあり、「作家と読者の集い」は多い時に会場とリモートを合わせると200人ほどが参加する。現在、300回を超えている「作家と読者の集い」が、隆祥館書店の売り上げを支える大きな柱となっているのだ。
しかし、イベントは二村さんにかかる負荷を高めている。2015年に父の善明さん、2016年に母の尚子さんを亡くす前後から、二村さんは隆祥館書店の店主として経営を担っている。その業務の合間を縫って、お客さんに本を勧めるために膨大な読書をしてきた。
そのなかから「これは!」という本を紹介するためのイベントだから、司会進行も務める二村さんは対象の本を読み込む。付箋だらけの本を見れば、その思い入れがわかるだろう。イベント後には、自らレポートも書く。