英国作家デイヴィッド・ミッチェル原作の『クラウド アトラス』が公開されたのは2012年だった。19世紀から未来まで、数百年の時空をこえた世界を舞台にした複雑な構成の物語で、インディー映画としては最大の制作費をかけた作品だ。キャストは各時代で異なる人物を一人で6役を演じた。その一人であるヒュー・グラントの演技に圧倒されたというのが、二人組監督スコット・ベックとブライアン・ウッズだ。『クワイエット・プレイス』の脚本家としても知られる二人は、新作『異端者の家』にグラントが出演することを熱望した。

 

“自分が楽しく演じる姿”が目に浮かぶ役だった

 近年グラントは悪役や汚れ役、そしてなさけなくもおどけたキャラクターなどを好んで演じ、好評を得ている。役者ヒュー・グラントのルネッサンス! という声まであるほどだったが、本作では、さらに新たな役に挑み最高の演技を見せてくれる。ロマ・コメの大スター、上品英国紳士という二枚目俳優のイメージを打破し、ふっきれた演技が痛快だ。

 斬新な作品で近年映画界をけん引するA24の制作するホラー映画でもある本作に、出演した理由を話してくれた。

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「この作品には、かなりコメディの要素があると思います。私の演じたミスター・リードは、自分は面白い人間だと思いこんでいます。おそらく大学の教授として教鞭をとっているような人物で、自分は気軽に生徒と冗談をとばす気さくな先生だと思いこんでいるふしがあります。彼の冗談はあまり面白くないのに、常にうけようと努力している点が滑稽です。こうした設定に興味が湧きました。彼が面白くしようと努力すればするほど、より不気味で、次第にそれが誇張されていく……。初めて脚本を読んだとき、この役は絶対にやらなければならないと思いました。すごく奇妙で大胆な内容、自分が楽しく演じる姿が目に浮かんだんです」

いろんな意味で大胆な作品となった

 その大胆な内容というのは、テーマが宗教的、哲学的である点なのか、それとも映画作りの作法という意味なのか。

 

「いろんな意味での大胆ですが、特にキリスト教というテーマに取り組んでいる点ですね。アメリカの映画市場は巨大ですが、国民はキリスト教徒が大半を占めています。キリスト教に関わらず、宗教という課題が真っ向から映画で語られることはまれで、多くの場合変にひねられて不気味に取り上げられたり、ホラーにされたりする。十字架や信仰心とかについて語ることを避けているというか……。多くが宗教という課題に惹かれつつも、それについて語ることを恐れてしまっています。その点が興味深い。

 同時に本作はジャンルを超えた映画でもあります。ホラーそれともスリラー、何だろう? と思わせる内容がとても新鮮です。映画作りのルールを破っていますね。例えばホラー映画では野外ロケ・シーンが多く使われる、といったような常識的なルールに縛られていない点でもです」